第43話 上位種遭遇

第1段階は、成功したと言える。

魔物化した人の足止めの成功。

してない人は、セイランが瞬く間に3人を保護した。

拘束して眠らせて、少し離れた所にそっと寝かしてくれた。

後は、魔物化した人への対応だけだ。

昨日見た魔物より、より凶悪になっている気がする。

赤い目と、大きな牙、鋭い爪、黒い肌。

初めて見た魔物より少し大きい体。

5体の魔物は、私達を睨みつけて飛びかかろうとする。

麻痺が残って、足を地面に取られているせいで、上手く動けずにタタラを踏んでいる。

その隙を、見逃すことなく、手前にいた1体の首を風が掻き切った。

セイランも1体を風の檻に閉じ込めて、風の刃を四方から浴びせ続ける。

切り刻まれた魔物は、断末魔の叫びを上げて霧散した。

次に私が向きあったのは、背中に翼を生やした魔物だった。

まだ小さな翼は、パタパタと、動くだけで体を持ち上げるほどでは無いようだ。

大量の少し大きめの石礫を周囲に浮かせて、速度と強度を上げて放つ。

石礫は、魔物の翼も爪も顔も関係なく、満遍なくぶつかって行った。

魔物は、石礫の衝撃に体をフラフラと揺らしながらも私に向かってこようとする。

私は、水の魔力を高圧で魔物にぶつけて吹き飛ばした。

だいぶしぶとい個体のようで、まだ霧散することは無かった。

麻痺が溶けてきたのか、動きが早くなって、一気に距離を詰められる。

振りかぶって爪を振り下ろそうとする魔物に、右手を出して魔法壁を展開して応戦する。

魔物は弾き飛ばされた体を素早く立て直すと、転がっている石を拾って投げてきた。

それを避けながら、避けきれない物は魔法壁で防いだ。

石に気を取られた刹那に、もう1体の魔物に後ろを取られてしまう。

後ろから、首に腕を回されて締めあげられる。

息が出来なくて、魔物の腕を引っ掻くように剥がそうともがいていた。

私の爪が魔物の腕にくい込んだ時、腕輪から魔力が放出されて、魔物の腕をぶつっとちぎり飛ばした。

空気を急激に吸い込んで、むせてしまう。

咳き込みながらルーベルグに、小さくありがとうと声をかけると、腕輪は仄かに温かくなる。

ふらつきながら立ちあがると、私の後ろで腕を吹き飛ばされた魔物が霧散した。

魔力の元を確認すると、セイランが手を前に突き出していた。

間違いなくセイランが自分に近づいていた1体を屠り、私に当たらないような精密な制御で魔力を放ったに違いない。

「はい、気を抜かない。もう、降参?交代するの?」

セイランの言葉に、首を横に振って意地を見せる。

最後の1体くらい、私が倒す。そう気合を入れて、目の前に迫ってきた魔物に浴びせるように水の刃を放った。

最後の1体は、全身を切り刻まれて後ろに倒れながら霧散した。

ホッと息をつくと、セイランが隣にいて頭をポンポンと撫でながらお疲れ。と笑いかけてくれた。

情けない顔で笑顔を作りながら、保護した人たちを見るとどこからともなく精霊さん5人ほど魔力に包まれた人達を浮かせて運び出していた。

「彼らは、ララの家のもう一人と一緒にしばらく寝ててもらうよ。迎えに来て貰ったんだ。任せていい。」

セイランは、そう説明して先に進もうかと前を歩き始めた。

それから2回ほど、それぞれ3体ずつと先頭になったが、今度は危なげなくすべての相手が出来た。助けられたのは2人だけだった。その人たちも、精霊さんがどこからともなく現われて、ララの家に連れて行ってくれる。

通路の先に明かりが見えた時、ルーベルグ熱く光ると大きな影が私の目を覆った。

セイランの背中が目の前にあった。

声を掛けようとして、セイランの顔を見上げると、焦りの表情を浮かべている。

ふとセイランの腕の隙間から前を見ると、成人男性ほどの人影が見えた。

その人影が一歩前に進み出ると、セイランの緊張が増した気がした。

正面の人影の姿が魔法の灯りに照らされる。

真っ赤な瞳、尖った耳、大きな口に尖った歯が並び、異常なほど白い肌は胸の上まででその下は漆黒に塗りつぶされていた。

背中の大きな蝙蝠の翼は閉じていて、爪のような出っ張りのある上の部分が肩越しに見えていた。

明らかに今まで見たどの魔物よりも強い魔力、禍々しさ、それらがその個体が上位種だと示していた。

「上位種・・・」

私のつぶやきを魔物の耳が拾ってしまったようだ。

「ほぅ?人間にしては、魔力が多いですね。いい材料になりそうです。しかも、雌なら尚のこと。一緒にいらっしゃい。」

手を差し出してくる魔物に、セイランが侮蔑的な音で鼻を鳴らして意識を私から逸らした。

「ボクを目の前に、よくもこの小さな少女を誑かそうと思えるな。鏡って知ってるか?一度見てみるといい。」

明らかに嫌味だと気付いたのか、魔物はセイランに体ごと視線を向けた。

「少し強いくらいの精霊が生意気ですね?弱いならその少女ほど弱ければ見逃してあげるものを。可哀そうな精霊ですね?」

嫌味を言い返す魔物に、セイランが初手にしては強めな風の魔法を放った。

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