第40話 掃討戦
エレンが落ち着くのを待って、話を聞いた。
大精霊様が3人もいれば、多少の時間の余裕は、あるはず。
エレン曰く、見回り終わった帰り道、ゲルガンが突然騒ぎ出して剣が滾る様に熱くなったと思ったら、魔物の大群と千切れたボロ布のような無数の死体に遭遇したらしい。
その数は、ざっと100を超えていて、エレンには手に負えないと判断してガルラさんが足止めを買って出てエレンを走らせたのだという。
とっさのことで通信魔道具の存在を失念していたと、盛大に後悔していた。
元王女らしからぬ、頭を掻き毟るという行動に、マリと二人で少し身を引いてしまった。
走り出したエレンを先ほどの2体が気付いて追いかけ、剣では応戦できずに誰かが戻っていることを期待して帰ってきたのだという。
緊張の中、走り続けたことに感心すると、自分もそうだったことを思い出した。
エレンをしっかり休ませてから昏睡させている男性をそのままにして、大精霊様二人を追いかけることにした。
その間に、マリがララに詳細を説明してくれた。
ララは結界の術式の書き込みが、思いの外難航していることをしきりに謝っていたそうだ。
エレンの案内で、進むと雑木林の中にぽっかりと焼け野原のような空間が出来ていた。
大精霊様の本領を発揮したかのような、三人の大精霊様の魔力の渦に眩暈がした。
小さいものや弱いものは、既に一蹴されているようで大型の猿のような魔物が3体と人に限りなく近い容姿の魔物が2体いるだけになっていた。
大精霊様三人は、私たちに大猿を任せる代わりに人型には絶対近づくなと念を押して、私たち三人に防御力強化の魔法をかけてくれた。
人型の魔物は、どう逆立ちしても勝ち目がないと思うほどに凶悪な魔力を纏わりつかせていた。
私たち三人は、言われたとおりに大猿の魔物を、大精霊様たちに近づけさせないように誘い出すことにした。
エレンに脚力強化と体力の自動回復魔法をかけて、三体の間を走り回りながら攻撃してもらう。
エレンが釣り役になって、私たちのいる所まで誘い出してもらった。
エレンを追いかけてきた大猿は、エレンしか見ていなかったから、突貫で作成した巨大落とし穴に1体と巨大蜘蛛の巣もどきに1体が引っ掛かった。
残りの1体を、エレンの炎剣に強化を最大限にかけて兜割で仕留めて貰う。
流石に、強度が違うのか3発叩き込んでやっと霧散した。
落とし穴の方は、上り上がろうと藻掻く度に穴の補強をして、絶え間ない穴の横壁から生える土の棘に苛まれて体力を削り続けていた。
先に蜘蛛の巣の方を、倒すことにして、三人が同時に蜘蛛の巣に絡み取られて身動きの出来ない大猿に一撃を入れる。
私の風の大剣とマリの巨大なつららとエレンの炎剣に貫かれた体は、抵抗もできずに霧散した。
最後に足搔き続ける落とし穴の大猿は、大岩と大氷塊に押しつぶされて霧散した。
三体の大猿を討伐し終えて大精霊様三人の方を見ると、人型の魔物が空に浮かんでいた。
ガルラさんとセイランも宙に浮き、空の二人と1体は睨み合っていた。
地上では、マルタさんがもう1体の魔物を太い蔦で拘束していた。
逃がさない様に、魔力を注ぎ続けて強度を保ち続けている様だった。
ぶちりと音がしては、修復されていくのを繰り返している。
私は、三人のスキにならない様に声を掛けずに動かずにいる方がいいと判断して、エレンとマリに伝えた。
しばらくその膠着状態が続いたが、突然腕輪からルーベルグが話しかけてくる。
「アナ、水の大精霊が向かってきてるって。セイランが何故か通信してきた。水のが来たら、アナたちはスキをついて逃げろって。大精霊が4人なら出来る大技があるから安心しろって。他の二人にも、伝言されてるはずだよ。」
私は、エレンとマリを見ると、お互いに一つ頷いて、サリアさんの到着時のスキを窺うことに神経を集中させた。
セイランたちが膠着状態を保っていたのは、サリアさんを待っていたからなんだと、打つ手が無いからじゃなかったことに安堵した。
それから、あまり時間を置かずにサリアさんが到着する。
到着と同時にサリアさんの水魔法が、辺り一面を魔力で満たした。
魔物が驚いた瞬間に、私とエレンとマリはサリアさんが現れた方向に向かって走り出した。
ちらりと横目で見えたセイランは、満足げに目を細めていた。
これで正解だったみたいだ。邪魔にならなくて良かった。
それからは、後ろを振り返ることなく走り続けた。
誰も何も言わなかった。言わないだけで、自分の力不足が悔しくない訳がない。
三人ともが悔しさを走る速度に変換するように、速度を限界まで上げてララの家に向かった。
ララの家が見えたらララが待っていてくれるのも見えて、帰ってきた安心からか足が縺れた。
ララの直前で、見事な前転を2回ほど披露するすっ転び方をして、膝も手のひらも擦り傷で血が滲んだ。
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