第39話 捕獲完了
男性の体が、大きく体が揺れる度に体から何かが落ちて行った。
眼だったり、指だったり、頬の肉だったり、きっと黒ずんでいたのは壊死していたのだと思う。この男性は、既に亡くなっていたのだろう。
正に、人の皮を被った魔物だったのだ。
証拠に体が揺れだしてから、ルーベルグが警告してくれている。
至る所が剥がれ落ち、中からは魔物の姿が露呈する。
先ほど見た魔物より一回り大きく、大きなぎょろっとした瞳は赤く染まっていた。
口にはギザギザとした鋭い歯が見えている。
ぎゃぎゃぎゃっ
叫ぶと同時に正面から飛び掛かってくる。
それを、得意になってきた即時無詠唱の魔法壁で防ぐ。
壁に打つかって跳ね返された体を、すぐに翻して飛び掛かってくる。
炎の壁を作り、魔物の体を焼くと同時に目隠しにして続けざまに風の刃で魔物の左腕を切り落とした。
痛みがあるのか、落とされた部分に手を当てて怯む。
私は、間髪置かずに風の刃を量産して全方向から魔物を切り刻んだ。
首が胴体から離れると、魔核を残して霧散する。
他に向かってくるものが居ないかを周囲を見回して確認する。
ローブ姿が消えて、先ほどの魔物と似たような2体の魔物が現れていた。
流石に、大人しく待ってくれるわけがない。
私は、水と風の魔力を練り上げて尖った氷柱をいくつも作り上げて、2体に向かって放った。
距離のあった1体は、躱して突進してくる。そこに左手で竜巻を作り、風の中に閉じ込めた。
風に体を切られながらも、突進を諦めないが動きは止まった。
氷柱を体に突き刺した魔物は、後ろに吹き飛んでいた。
こちらに向かってくる間に1体の動きを封じることが出来たのは僥倖だった。
向かってくる魔物に、右手で土槍を作って放つ。
正面から土槍を受けて怯んだ魔物の首を、大きな風の刃が切り飛ばした。
その間に、動きを止めていた方がじりじりと満身創痍ながらも近づいていた。
まだ距離がある分、余裕をもって風の大剣を練り上げた。
何も考えずに、魔物に向かって大剣を振り下ろす。
袈裟懸けに真っ二つに体が割れて、霧散した。
一対一で負けることは無い様だ。訓練の賜物だと、自分を褒めたい。
3体の魔物が霧散したのを確認したのか、下がっていた二人が近づいてくる。
「お疲れさん。強いじゃん。」
セイランに褒められて、嬉しさがこみ上げる。
「アナ、ルーと一緒に頑張ったもんね。」
ルーベルグがすりすりと頬ずりしてくれる。
可愛い労いに、思わず頬が垂れ落ちるほどに緩んでしまった。
「二人ともありがと。セイラン、そのまま担いでいて大丈夫?このまま残りも見て回りたいのだけれど。」
私がセイランに重くないのかと尋ねると、男性の体がふわりと宙に浮いた。
「体力を使うより、魔力を使った方が楽だよねぇ。」
私の心配は、不要だったようだ。
私が呆れたように笑うと、小さく、これだから大精霊ってやつは。と、ルーベルグが呟いていた。
残りの2ヶ所に不審な点は無く、私たちは帰路に就いた。
ララの家に到着すると、マリが帰っていた。
「お帰り、アナ。お疲れ様。なんだか、すごいものをお土産にしてきたみたいだね。」
マリが、宙に浮いたまま拘束されている男性を見上げて、複雑な顔をする。
「ただいま。お帰り。マリもお疲れ様。ララは?」
苦笑いで答えてララの居所を確認すると、まだ戻っていないらしい。
二人で玄関先で二人の帰りを待つことにした。
ルーベルグとレーベルグは、楽しそうに二人でくるくると回っているし、マルタさんはセイランとお互いの行動の報告会をしていた。
男性は宙に浮いたまま意識を手放しているし、私とマリは執事さんが用意してくれた長椅子に腰かけてお茶を頂いた。
温かいお茶が思いのほか体に染みて、自分が思うよりも緊張していたことに気付いた。
マリは、担当した場所に何もなく、帰りにもう一度気配に気を付けて藪の中なんかも気にしながら帰ってきたそうだ。
何もないならそれが一番だと思ったが、マリは肩透かしを食らった気がすると笑って、お茶を飲んだ。
しばらくすると、エレンが戻ってきた。
息を荒らげて走ってくる。何かあったのかと、身構えて迎えに走る。
「ごめん。大きいのが2体、追ってきてる。巻ききれなかった。ガルラが、だいぶ向こうで大軍を見つけて交戦してる。セイランさん、マルタさん、行ってあげて。」
言うや否や、セイランとマルタさんは風のように通り抜けていった。
それを見送ると、大きな有翼種が見えた。剣士のエレンでは、相性が悪い相手だ。
マルレイで見た魔物だった。
一気に血が沸騰するような感覚に襲われて、風の刃を放っていた。
大精霊二人は、その横をすり抜けて走っていた。
翼を傷つけられて怒ったのか、魔物は口を開けて火球を吐き出そうとしていた。
何度も見た、吐き出す前に水球を口の中に押し込んでやった。
その1体が、そのまま霧散する。
もう1体は、マリの氷で串刺しにされて霧散するところだった。
「ありがとう。飛ばれると対処が出来なくて、困ってた。ごめん。」
悔しそうに肩で息をしながら、エレンが謝る。
「大丈夫。一人じゃないんだから、それでいいんだと思う。」
落ち込むエレンを慰めて、長椅子まで肩を貸した。
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