第37話 乗り越えた者
ララの家に着くと、エレン・ララ・マリの三人は、お手洗いに駆け込んだ。
ここまで我慢していた三人が凄いと思う。私は、三人の介抱に向かうことにした。
ミハエルさんとオリガさんに、畑での出来事の説明を各所に伝えて貰えるように言ってお手洗いに向かった。
三人は、涙を瞳いっぱいに溜めて座り込んでいた。
多分、もう吐けるものは吐いてしまったのだろう。
大丈夫?と声をかけると、エレンが謝ってくる。
「謝らなくて大丈夫だよ。三人が、そうなるのは分かってる。一部は経験済みだからね。醜悪さと血の匂いに当てられたんだと思う。」
流石に、あんな風に体内から魔物が出てくるところは見たこともなっかけど。
「口をゆすいで、顔を洗おう?」
借りてきたタオルを三人に渡した。
頷いて立ち上がろうとして腰が抜けている三人を、順番に手伝って立たせた。
三人が顔を洗って口をゆすいだ後、居間に戻ると精霊王様方が小龍精たちと共に揃っていた。
執事さんに口がさっぱりするお茶を入れてくれるように頼んでから、席に着いた。
「大体の話は、聞いたわ。アナ、みんなも大変だったわね。無事でよかったわ。」
クシュ様の言葉に、他の精霊王様方も頷いた。
「ちび達が、すげー勢いで飛んできて、まくしたてるから何事かと思ったら、大事だったな。そばに居てやれなくて、すまなかった。全員無事に戻ってきてくれて、良かった。ちび達も心配してたから、慰めてやれよ。」
レミネス様が私の肩に乗っているルーベルグを目線で示す。
小龍精達はそれぞれ部屋に入った時点で、主の肩の上に飛んできていた。
「アナ、詳細をすり合わせて貰ってもいいかしら?少し、辛いとは思うけど一刻を争うわ。」
レーネ様が、気遣いながらも真剣な眼差しを私に向ける。
「もちろんです。畑には3人の人影が見えました。その内の一人にミハエルさんが声を掛けると気怠そうに振り返りあっちへ行けと言ったので、ミハエルさんがその男性の肩に手を置いたところ、勢いよく払われた瞬間に口を手を使って限界以上に開きはじめました。口が裂けそのまま耳まで到達し、顔の上半分が首の後ろへ倒れたところで、今度は喉を手で広げようとしたので、私が二人に人外であるだろうという事を伝え、それの殺害と撤退を願い出ました。二人の攻撃と私の魔法で男性は倒れましたが、死体から魔物がはい出てきました。その魔物は一度二人の剣戟と私の魔法を躱したので、私が二人の後ろに隠れる状態で足を固定する魔法を使い、動きを止めたところでオリガさんの一撃後、ミハエルさんが首を撥ねました。その後は、魔核を残して霧散したので走って戻ってきました。」
私が話している間も三人は顔を青くしていたけれど、なんとか堪えた様だった。
「すり合わせは完璧ね。アナ、聖龍正教だという確認はできた?」
「いいえ。ですが、魔物が人間の中に潜んで結界内に入り込んでいるのは確かです。あの男性は、生気の無い顔で目が落ち窪み健康な成人男性とは、かけ離れた印象を持ちました。もしかしたら、既に亡くなっているか、魔物に寄生されて生気を奪われているのではないでしょうか。随分と動きが緩慢でした。」
クシュ様の問いに答えると、精霊王様方の表情が曇る。
「シルビア、レミネス、レーネ、半身を残して半身で魔物を探知できるかしら?」
「難しいわね。結界の魔力制御がめんどくさいわ。」
「ちび達に感知させれないか?」
クシュ様、シルビア様、レミネス様が順に発言する。
突然話を振られた小龍精達が、ぴょんと机に揃って降り立つ。
「出来るよ。」
「龍に貰った力で、魔物の探知出来るよ。」
「俺たちに任せろ。」
今度は、ルーベルグ・レーベルグ・ゲルガンが順に答える。
「そんなことが出来る様になったのね。凄いわ、ゲルガン。」
エレンが、得意げに腰に手を当てているゲルガンを褒めると、自分たちも褒めて欲しいと言わんばかりのルーベルグとレーベルグの熱い視線を感じた。
マリと私は、それぞれの小龍精をこれでもかと、褒めて撫でる。
全員が微笑ましく小龍精を眺める中、レミネス様が任せたぞと小龍精達を突く。
嫌々と逃げながらも、やる気は十分な小龍精達だった。
「残りの問題は、戦力ね。私たちが動けない以上、この子たちに戦ってもらうことになるわ。戦力的にも精神的にも、心配だわ。」
「セイランたちをそれぞれに付けましょうよ。大精霊と呼ばれているくらいだもの、戦力的には大丈夫でしょう?私も、それくらいの穴埋めなら出来るわ。」
レーネ様の問題提起に、シルビア様の提案が採用された。
「あとの問題は、エレンとマリが戦えるかどうかだけど、大丈夫?」
レーネ様が、まだ少し顔色の悪い三人を気遣う。
「私、舐めていました。人が死ぬということも、魔物と戦うということも。でも、もう大丈夫です。ララとこの国を救うために来たのですから、戦わせてください。」
エレンが、力強い瞳で立ち上がって発言した。
「私も、同じ気持ちです。乗り越えて見せます。戦わせてください。」
マリも同じように、立ち上がる。
「私も、守られるばかりではいけないと思っています。この国を、守るための巫女であり、私はその筆頭なのですから。守って見せます。」
ララまでもが、強い決意で立ち上がった。
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