第34話 マリナ諸島、決戦前日

それぞれが動きなどを確認し微調整された装備に身を包み、ロンデル様や精霊王様方にお礼を言う。

全員がニコニコと、孫の着せ替えを愛でるおじいちゃんおばあちゃんの顔になっている気がする。

「うむ。三人とも良く似合っておるし、付与魔法もしっかりかかっておるのぉ。よし、我から一つ決戦前の贈り物をしようぞ。」

これ以上、何があるというのかわからずに三人揃って小首を傾げた。

唐突にポンっと小龍精達が現れて驚く。

それぞれの主の肩にちょこんと乗っているのが可愛らしい。

ロンデル様が両手を前に出すと小龍精達がふわふわとロンデル様の手のひらの上まで浮いていく。

三人が手のひらに収まると、ロンデル様の手が光り出す。

優しい光が小さな三人を包むと、すっと消えていく。

三人は、きょとんとした顔のまま、自分の主の元へ戻ってきた。

「小さき子らよ、お前たちに我の力の片鱗をほんの少しだが与えてやった。主を守るために尽力せよ。主と共に成長し、主を助け、守るのだぞ。」

そういうと、ロンデル様は大きな白竜の姿に変わって寝床である籠の中に行ってしまった。

見た目には何の変化もなく、可愛らしい姿のまま小龍精達はロンデル様に何度も頷いていた。

私達は緊張の中、ララがどうしているのかを思っていた。


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予言をクシュ様に伝えてから、私の毎日は慌ただしく過ぎた。

頭首に予言を伝え、民の避難を承認してもらい、避難民の受け入れを近隣諸国に要請し、受け入れと送り出しの体制の調整、民への通達と各島の領主たちと共に反対派の人たちの説得、避難船造船ための材料への魔法付与や結界の強化と毎日が駆け足だった。

嬉しかったのは、クシュ様が掛け合ってくれて避難船の用心棒を精霊さんたちが請け負ってくれたこと。

滅多に見ることのできない精霊を見れるとあって、子供たちが大人を好奇心と安心感間から説得してくれたことで話が早く進んだ。

魔物との戦いも津波と相まって、民たちが一時避難を諦めと共にだとしても納得してくれたこともよかったと思う。

同じ強制でも納得をしているかしていないかでは、後々の生活や国のあり方にも関わてくると思うから。

マリナ諸島全体を覆う結界の強化にも精霊王様方が力を貸して下さったおかげで、予言よりも広範囲で守り切れるかもしれない。

アナとエレン、それにメルセリウムの王女様も力を貸してくれるし、安心材料は沢山ある。

今日も朝から、忙しかったけれど、やれるだけの事は出来たと思っている。あとは、魔物との戦いに勝つだけ。

小休止のために戻った自宅の窓から真昼の輝く海を眺めていると、扉の開く音がして振り返った。

「お父様。どうなさいましたか。」

お父様は、領主として島の警備と明日の戦闘のために警備団の詰所に居るはずなのに。

「ララ、ついに明日だね。島民たちの避難は無事に完了したそうだね。夜には、お友達と精霊王様方もいらっしゃるのだろう?」

「えぇ。夜になればいらっしゃいますわ。本当に、どうなさったの?」

普段は優し気で気弱に見えるが、領主としてちゃんと肝は座っているはずのお父様の顔が沈んで見える。

不安があって当たり前だけれど、何かがいつもと違う気がする。

「預かってほしいものがあるんだ。大切なものだけれど、万が一にでも失くしたら嫌だから、ララに預かってもらうのが一番だと思うんだよ。」

小さな箱と日記と思われる本を一冊渡された。

「なんです?」

「シェリルの冒険者証と冒険者時代の日記だよ。」

「え?」

お母様が冒険者だった?聞いたことがない。

隣の島の領主の家系で、兄は現頭首閣下で、私が生まれてすぐに亡くなってしまったお母様。絵でしかお顔を知らないけれど、私によく似た顔立ちの人。

「シェリルとは幼馴染みたいなものだったよ。幼い頃からの婚約者だったけど、ララとは正反対のお転婆でね。いつも私が尻拭いをさせられていたね。屋敷の庭の木に登って枝をメキメキに折って落ちた時も、痛がって泣いているシェリルの代わりに私がお義父様に怒られたよ。そんなお転婆だから、まだ結婚したくないと言って15歳で島を飛び出して23歳で冒険もキリがついたと帰ってくるまで冒険者として大陸を駆け回っていたよ。」

お父様が懐かしそうに楽しそうに微笑む。

「知りませんでした。お母様が冒険者だったなんて。」

「うん。ララの小さいときに亡くなったからね。日記は読んで構わないよ。ララが持っていると良い。でも、冒険者証は返しておくれ。預けるだけだからね。」

そう言って、詰所に帰っていくお父様の後ろ姿がなぜか、目に焼き付いてしまった。

それにしても、私の夢も冒険者になることだもの、ちゃんと親子なんだわ。

後でゆっくり読もうと、クシュ様のくれた魔法袋にそっと冒険者証と日記をしまった。

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