第33話 マリナ諸島の危機
「よくわかったわね、アナ。貴女の言う通り津波だそうよ。どうしてこの美しい島々が災難に見舞われるのかと、ララも泣いていたわ。津波は自然の摂理であって人には何もできないと、自分は無力だと、大泣きするあの子を置いては帰ってこれなかった。遅くなってごめんなさいね。あぁ、お土産よ、マリ。この子たちとお揃いのガラス細工。部屋に飾ってね。」
力なく微笑んで、美しい海の色のガラス細工をマリに手渡すと、そのままロンデル様の足元に行って座り込んでしまった。
ロンデル様は、大きな白い龍の姿のままクシュ様を腕の中に抱き包んでいた。
クシュ様にかける言葉もわからず、私たちは三人でただただその時間を共有するしかできなかった。
きっとクシュ様は、自分が司る水が自分の加護を超えて見守ってきた人たちに襲い掛かることを止められずに苦しいんだろうと思う。
如何な精霊王様方と言えども自然災害は止められない。
自然発生する事象に手を加えることは出来ないのだと、教科書の隅に小さく書いてあった。
大きな音を立てないように、そっと歩いて部屋に着替えを取りに戻った。
脱衣所で、抑えきれなくなってエレンが泣き出してしまった。
ララと仲良くなったのは、つい先日のことだ。
「ララ、きっと今も泣いてるわ。一緒に頑張ろうねって、なんでも手伝うからねって、言ったのに。今、辛いときに一緒にいてあげられないなんて!」
私とマリは、エレンの背中を撫でて左右から抱きしめた。
「私はララって子に会ったことはないけれど、貴女がそんなに思うならきっと素敵な子なんでしょうね。私も、仲良くなりたいわ。どんな子なの?」
「ララは、筆頭巫女で私たちと同い年なのに、大掛かりな結界を張ったり、回復魔法が得意だったりするのよ。国の政や祭事にも欠かせない子で、すごく忙しいの。一緒にお茶をして、お喋りをして、本当は冒険がしたいって言ってたの。色々な国に行って、色んなものを食べて、色んなことを知って、色んな人に会いたいって、普通の女の子なの。」
マリの言葉に、出会って楽しかったことを涙を堪えながら喋るエレン。
喋るうちに落ち着いてきたのか、俯いていた顔が上を向いてきた。
「エレン、私も一緒にララを助けに行くから。頑張ろうね。仲良くなれるように、手助けしてね。」
にっこりと笑って言うマリの言葉に、エレンもにっこりと笑って返していた。
「私も頑張るよ。ね?エレン!」
私も負けじと力こぶを作って見せると、二人が声を出して笑う。
「じゃあ、先ずはマリの体力作りから手伝わなきゃね。すんごく、ぜーぜーしてたもの。」
エレンが言うと、マリが拗ねた様に口を尖らせた。
笑いあって、お風呂に入って、部屋に戻って、布団に包まる。
明日から、もっと練習しよう。
ララやエレンやマリを泣かせないように頑張ろう。
そんなことを考えながら、眠りに落ちて行った。
翌日から、訓練も本格的に再開して、マリとレーベルグの呼吸の合わせ方や、魔法の練り方なんかも皆で考えを出し合って、お互いの連携も高めていった。
そんなこんなで、ララが予言した赤く丸い月の日の前日、全員で湖に集まった。
「いよいよ、明日ね。今夜から、あちらに行くわよ。忘れないでね。」
レーネ様が言うと、レミネス様がやる気満々だと柔軟体操をし始める。
それを見て、シルビア様が笑うと緊張が少し解けた気がする。
マルタさんが、たくさんの箱を持った精霊さんたちと歩いてくる。
「装備が出来たそうだから、見て付けてみるといい。」
ロンデル様の言葉に、三人で顔を見合わせてにやける。
昨日の夜に今日見れると聞いていたから、楽しみにしていた。
「先ずは、アナ様の分からどうぞ。」
マルタさんが私の前に、装備の入った箱を広げてくれる。
淡い緑の膝上丈のワンピースには、裾と長袖の袖口と詰襟の縁に銀の糸で蔦模様が刺繍されていて、裾は動きやすいようにドレープが多く取られていた。
前開きのボタンには、つるりとした手触りの紐が玉のように丸められていて、コロンとした見た目がとても可愛かった。
下着が気にならないようにと、同じ色の大好きな寝間着の生地で一分丈のショートパンツを作ってくれている所が心憎いほどに嬉しい。
皮を鞣して作ってくれた丈夫なブーツは編み上げ飾りが付いていてお洒落なのに履きやすくなっていた。ブーツと同じ素材のベルトは、小物が引っかけられるように少し太めに作られていて、魔法袋を付けておける。
にやにやと持ち上げたり撫でたりしている私に、着て微調整をさせてほしいとマルタさんが言うので、いつの間にか簡易的に作られた試着室で着替えることにした。
その間にも、エレンとマリの分の装備が開かれていて、早く見たくて着替えを急いだ。
試着室を出ると、またまたいつの間にか出来ている試着室に二人も入って着替えているようだった。
全員が揃うと、お互いにくるくると回ってお披露目をする。
エレンの装備は、金の糸が絡むように襟と袖と裾に縁取りされた丈の短めの赤いジャケットと白いスラックスで、王城などに努める騎士たちの制服を思わせた。
中に訓練着と同じ白いシャツを着るとジャケットの色が更に冴えて見えた。
マリの装備は、私のワンピースのロングスカート版で深緑の生地に銀の蔦模様の刺繍だった。
全てに、防汚防臭と物理防御量上昇や魔法耐性強化など、それぞれの適性に合わせた魔法が付与されていた。
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