第32話 訓練再開
小さい男の子達の存在は、結局ロンデル様が親という様なものだということで小龍精と称する事になり、この世界に新たなる存在が確認された一大事であるのだけれど、本人達も精霊王様方もロンデル様でさえのんびりとしたもので、三人の少女だけが歴史の目撃者となったことに、軽いめまいを覚えていた。
当のレーベルグは、自分の事を唐突に語り始めて、できることを教えてくれた。
本人曰く、自分は弓であり使用者である装備者の魔力を収束して矢を放つこと、一度に装備者の魔力がある限り何本でも同時に発射できること、装備者の魔力の回復量を5倍まで増加させることができるらしい。
魔力の限り何本でも打てる矢と回復量が5倍というのは、反則の様なものだと思うのだが、本人はマリの役に立てるなら、なんでもいいとの事だった。
マリは、弓としてのレーベルグより小さい男の子のレーベルグと仲良くなりたいらしく、お菓子をあげたり、撫でたりと忙しそうだった。
「さて、そろそろ真面目な話もしようか。お昼までに面倒な話は終わらせて、訓練も再開したいからな。メルセリウムの事情は分かった。レニスの子らの協力も取り付けた。あと目下の目標は、マリナの死守だな。メルセリウムは、しばらく手が出せないだろうしな。十中八九、魔都となるのは目に見えているような気もするが・・・民達の避難先はレニスの子らが選定してくれているんだろ?」
レミネス様が真面目な顔で話を始めたので、レーネ様も真面目な顔をして答えた。
「えぇ。レニスの子らは、聖龍正教の調査、メルセリウムの民の避難、魔物討伐のための支援を買って出てくれたわ。あの子たちの協力が得られたことは、大きな戦力だわ。マリナではクシュがララに伝えてくれているわ。ララに新たな予言が出ていたら、また少し状況は変わるでしょうけど。」
「私たちは、先ず、訓練をしていたら良いのですか?何か他にも、お手伝いできることはありませんか?」
マリは、何か贖罪を課して欲しいかのように前のめりな早口だった。
自国の民を他国に任せてしまうことの負い目が、あるのかもしれない。
王女という立場なら、そう思うのだろうか?
エレンも、同じ痛みを感じているのだろうか?
私ではわからないけれど、一緒に居ることで少しでも癒せたらいいな。
結果、訓練の再開と、クシュ様の帰りを待って話し合いも再開と言うことで、お昼を頂く。
今日は、小龍精が加わったので、食べやすい様にとサンドイッチだった。
茹でたまごを潰して味付けしたものの柔らかいもの、何種類もの加工肉の薄切りが野菜と共に挟まった少し硬めのもの、野菜だけが数種類挟まった歯触りの良いもの、クリームと果物を挟んだものと盛りだくさんだった。
小龍精達は、野菜の物が気に入ったらしく、自分たちの食べやすい大きさに切ってもらったものを私たちが食べるのと同じ量食べていた。
体の大きさより大きなものを食べているのに、どこに入っていくのか不思議でしょうがない。
満腹で座り込んでいるルーベルグのお腹は、パンパンに膨らんでいて、つついたら割れる風船の様で可愛かった。
満腹のお腹が収まってきた頃に、レミネス様が訓練の再開を宣言した。
私たちは訓練着に着替えて、走り込みなどのいつもの訓練が始まった。
私とエレンはだいぶ慣れたけど、マリは苦しそうだった。
折角の誂えられたばかりのマリの訓練着は、汗と土で直ぐに汚れてしまってマリが作ってくれた精霊さんに申し訳ないと言っていた。
あんまり素敵な着心地だから余計にそう思ってしまうのを、私とエレンは経験済みだった。
小休憩の時に、エレンと二人でしっかりマリを慰めて残りの訓練をこなしていった。
クシュ様がマリナ連合国から帰ってきたのは、夕飯の時間を大きく過ぎてからだった。
私たちは、のんびりお風呂前の時間を湖のほとりで過ごしていて、今までの事や出来る様になったことなど取り留めもなくお喋りしていた時だった。
「クシュ、おかえり。遅かったな。何か問題でも、起きたのか?」
レミネス様がクシュ様に気付いて声をかけて、私たちは振り返った。
そこには、落ち込んだ顔のクシュ様が立っていた。
「ララが新たな予言を見たそうよ。赤い丸い月の日、マリナは本島の半分を残して消滅する。と・・・」
「「そんな!」」
クシュ様の言葉に、私とエレンは衝撃を隠せず、マリは言葉を失っていた。
ララ達巫女の張る結界は、マリナ諸島全域を覆うほどの大きさのはず。
「魔物だけではないということですか?」
私は、津波という災害を知っている。
レーネ様が買ってくれた古代史の教科書に書かれていた。
想像を絶するほどの大きな波が、根こそぎ人も動物も大地も抉り取っていくのだと書かれていた。
私たちの住む大陸がいびつな形をしているのは、大昔に津波が大陸の3割を抉り取って飲み込んでしまったからだと書かれていた。
マルレイ国は、その津波が抉って出来た断崖絶壁を背にして作られた国だとも書かれていた。
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