第29話 4人目の少女
昨日、隊舎と図書館の見学をして、学園長様のお家でお世話になった。
学園の話をたくさんしてくれて、エレンも私もすごく楽しかったし、知らないことがたくさんあると知った。
夜になって、レーネ様から学園長様の一族の話を聞いた。
曰く、役目と呼ばれる人の死の間際に次の役目となる人に、蓄積されたすべての記憶や知識が引き継がれると言う。
今まで、何百何千という役目の人がいて、代々この国と学園を守ってきたらしい。
役目には、学園長様の様な両目ともが金色の魔力の高い人が選ばれ、役目でなくてもレニスの血の流れる子には生まれた時から一族の使命は刻まれているらしい。
役目で無い人たちは、鷹の目に所属したり、普通にこの国で暮らしているそうだ。
なんとも大変な一族だと思うけど、レニスの祖と言う人は、未来永劫のその役目と引き換えに高い魔力と長寿を世界が滅ぶまで一族に与えてほしいとロンデル様と精霊王様方に望んだらしい。
きっと、その人にもその時に大切な何かがあったんだろうなと、ぼやっと考えた。
私もあの時もし、願いが叶えられる様な事があれば、どんな対価でも払っていたかもしれない。
そんなことを考えながら、布団に入ったらレーネ様が歌を歌ってくれて、素晴らしくすとんと安眠に落ちて行った。
「レーネ様、おはようございます。昨日は素敵なお歌をありがとうございました。」
私が既に起きていたレーネ様に挨拶をすると、エレンが眠そうに目を擦りながら起きてきた。
「レーネ様、アナ、おはようございます。お早いのですね。」
エレンにもおはようを言って、着替えを手伝う。
「おはよう、二人とも。良く寝れたようで良かったわ。」
レーネ様は、にっこりと朝から素敵な笑顔でお茶を飲んでいた。
「着替えたら、軽く食事を頂いてマリエルに会いましょう。」
「「はい」」
すぐに食事が届いて、おいしく頂いた。
その後には、昨日の学園長様の部屋まで案内されて、マリエル様を待つ。
こんこんと音がして、少女が入ってきた。
白い髪赤い瞳の色白で静かに降る雪の様だと思った。
「マリエル・アルゴ・メルセリウム、参りました。」
「待っていたよ、マリエル君。朝から来てもらって、すまないね。こちらに来なさい。紹介しよう。」
メルセリウム王女マリエル様の声は、緊張で少し硬くなっているようだったが、学園長様は昨日と同じ柔らかく優しい声だった。
マリエル様は、レーネ様と私たちと挨拶と自己紹介をして学園長様の隣に座っている。
「マリエル、この子たちの国の事は聞いているわね。貴女の国も同じことに見舞われるかもしれない。いいえ、もっと悪いことが起こるかもしれない。だから、国に帰ってほしくないの。そして、私たちと共に魔物と戦ってほしい。聖龍正教について貴女が知っていることがあれば、教えてほしい。こちらの状況から説明するわね。」
レーネ様が今までの事とメルセリウムでの事を、ざっと駆け足で説明する。
「魔物の襲撃の事は、聞いています。その後、魔都と化し近隣国との交戦状態にあることも。そして、父は私に聖龍正教を保護し、国の旗頭として魔物と戦うことを言ってきています。聖龍正教は、お二人の国が魔都と化した頃に、活動を始めたと聞きました。父は、教祖エルマーと言う人物をそばに置くようになり、程なくして国教として迎え入れました。国民に触れを出し、それまでのレーネリア教から強制的に改宗させ、神殿を建て日に1度祈りの時間を作りました。魔物と戦う力を養うためと各家庭から15歳から20歳までの一人を神殿に仕えさせることとし、王都周辺の主要都市で正教教育をしているそうです。」
マリエル様は、重苦しい表情で話していた。
その顔を見ていると、辛そうで私が泣いてしまいそうになる。
「私は、聖龍正教が来てからの父の性格が変わったことが気になっています。元々好戦的な人でしたが、国民に何かを強いるようなことはしなかった。そして、聖龍正教は、戦うと言いながら魔物と戦っているようには見えないのです。魔物の出現した場所に派遣要請を出しているそうですが、行ってもいつも手遅れで民を救えていないと報告が来ています。それでも、父は聖龍正教を重用している。聖龍正教の幹部に一度だけ挨拶をされましたが、とても教会の人間とは思えぬ薄暗い血生臭さを感じたのです。」
その言葉に、その場の全員が聖龍正教がおかしいと改めて感じた。
「国は、聖龍正教に乗っ取られているかもしれません。聖龍正教と関係の深いものが、それまでの重臣たちを退けて国政にも口を出しているそうです。それまでの者たちは、投獄や処刑をされたと聞いています。反論したり疑問を持ったり、教会の人間に不敬を働いた者たちも同じ様です。私も個人の諜報部隊や信頼できる者たちを、危険を感じて国外に逃がしました。」
あきらかに乗っ取られていると思うが、国王陛下は何を考えておられるのだろうか。
全員が、言葉もなく顔を見合わせた。
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