第28話 学園長と一族
彼は、長いローブをゆったりと身に纏って、堂々たる威厳を白く長い顎髭で醸し出していた。
代々この地と学園を守る彼の一族は、悠久の年月をある特殊な魔法で繋いでいた。
遥か昔に、私たちが彼の一族の祖に与えた使命を遥かなる時を経た今も守り続けてくれている。
「久しいですね。この前は、まだ青年だったはずなのに。人の子の成長は、早いものです。」
「ははは。そうですね、いかな我ら金目のレニスの子と言えども老いは、貴女様より遥かに早いものです。どうぞこちらへ。ゆっくり、お茶でも飲みながらお話を聞かせてください。」
穏やかに笑んで先を歩く姿は、先代・先々代・その前の役目の子ともよく似ていた。
私と彼の会話を不思議そうに見つめる、少女たちには後でゆっくり昔の話を聞かせてあげましょう。
まだ、脆く小さく強いこの子たちが、どんな感想を言ってくれるのか、楽しみね。
案内されたのは、何度も訪れたことのある役目を継ぐ者の部屋、何百という小さな箱が大きな棚に並ぶ様は、私には愛おしさと切なさを溢れさせる。
この子たちには、異様な物に見えるでしょうね。
今もきょろきょろと可愛らしく控えめに部屋を観察してるわね。
「どうぞ、お寛ぎください。貴女たちも、不思議な物ばかりで興味は尽きないだろうが、先ずこちらで話を聞かせてくれるかな。」
小さな子を諭すように言われて、恥ずかしそうに椅子に腰かける二人の少女の可愛らしさに自然と笑みが溢れてしまう。
「さて、レーネ様。紹介をして頂けますかな。」
「そうね。この子たちは、私たちが身柄を預かり育てて、ともに戦う仲間で友人のアナとエレンよ。アナは、シルビアが加護を与えていたマルレイの生き残り、エレンはレミネスの所のムンダイの元王女。アナ、エレン、この人は魔法都市学園の今の学園長さんよ。」
二人は、可愛らしくお辞儀をすると、簡単に自己紹介をして、座りなおした。
「そうでしたか。二人とも大変でしたね。お二人の国の事は、ここにも届いています。エレノーラ王女の安否を心配する子も居ましたよ。マルレイ国も大変なことになって・・・二人が無事で良かったです。」
そう言って、目を細める様子は、すっかり好々爺になってしまったわね。
「私は、学園長のマスリタス・ムルスエル・レニスと言います。マス爺や学園長、レニス領主などとたくさんの名前がありますが、どう呼んでくれても構いませんよ。」
にっこりと微笑むマスリタスに、二人はにっこりと返していた。
「それで、この子たちに関するお話ですかな?」
「そうでもあり、違うとも言えるわ。学園にメルセリウムの王女が通っているわね。その子なのよ。」
搔い摘めるところは搔い摘んで、マリスタスに事の顛末を話した。
頭のいい子だったから、大体のところは分かっているはずだし、構わないでしょう。
「そうでしたか、聖龍正教の事はちらほらとこの国でも活動を聞いていますが・・・魔物の活動と入れ違いの行動や行方不明者となると、きな臭いですね。」
やはりそう思うわよね。
「えぇ、聖龍正教信者は、既にこの大陸全土に散らばっている様よ。時を同じくして何か仕掛けてくるのではと危惧しているわ。だから、中立という立場は分かっているけれど協力を、せめて聖龍正教をのさばらせない様にお願いしたいわ。」
マスリタスは、私の言ったことを吟味するように目を伏せた。
どうか、敵対だけはしてほしくない。立場上、どこかを特別視することができないのは分かっている。その為の一族と決めたのは私達精霊王とロンデルなのだから。
「わかりました。先ずはマリエル君の保護を優先していただく事としましょう。聖龍正教については、鷹の目を使ってこちらでも調べましょう。万が一くだらないことをするようなら、金の目のレニスを甘く見ないで貰えるようにしっかりお説教しなければなりませんしね。レーネ様、これは世界の危機として中立だからこそ中心でまとめ上げていく必要がある案件と考えます。我らに出来る限りご支援致しますよ。」
「ありがとう。それでは、マリエルに会わせてくれるかしら。ちゃんと話をしなければね。」
「わかりました。明日ここで会える様、手配しましょう。」
そう言って振り向くと、家令が一つ頷いて部屋を出る。
「マリスタス、ありがとう。原因も何もわからないけれど、この世界が魔物に蹂躙される様なことには、絶対にさせないから。」
「はい、レーネ様。しかし、引退も考え始めていましたが、まだこの老骨にもやるべき事があったようです。」
マリスタスは、いたずらを考える子供の様な笑みを浮かべる。
「えぇ、よろしくね。さて、今からどうしましょうか。貴女達も暇になっちゃうし、図書館でも行ってみる?アナは特に行ってみたいのでない?エレンもいいかしら?」
アナは、うんうんと大きく首を縦に振っているし図書館で良さそうだけど、エレンには詰まらないかしら。
「レーネ様、よろしければ・・・学園の見学なんかは出来ないでしょうか?あの、ダメならいいんです。」
「ふむ・・・学園の案内は出来ませんが、図書館があり学園の卒業生が多数在籍している鷹の目の隊舎は、どうです?」
マリスタスの提案にエレンも頷いて、私たち三人は鷹の目の隊舎に見学に行くことになった。
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