第26話 メルセリウム

夕食は、マリナからこっそりとクシュ様が持ち帰っていたお魚で、アクアパッツァになった。

たくさんの魚介に野菜に、凄く豪華な色彩だった。

味も、魚介の旨味たっぷりで、魚の身も柔らかく、肉ほどしつこさが無いせいかぺろっと出されたすべてが、みんなのお腹に消えていった。

夕食後のお茶を飲んでいると、レーネ様から話しかけられた。

「貴女達、メルセリウムがどんなところか知っている?」

「北の山脈の近くですよね。北壁のメルセリウムと呼ばれる要塞都市だと聞いていますが。」

私が知っているのは、そのくらいだった。

「たしか、年の近い王女様がいたはずです。マリエル様だったかしら。とても、魔力の強い方で、御父上の国王陛下から魔法国家アンルージャへの留学を薦められて入学されたとか。」

さすがエレン、他国のことまでよく知っていて、感心してしまう。

「そう。北の寒さが厳しい土地で、治安を守るために軍事に傾いた国よ。マリエルは、2年前に15歳で留学したわ。あと2年で戻る予定なの。あの子だけが、メルセリウムの未来を本気で心配しているわ。」

レーネ様の言葉に、不安が見える。

「どうゆうことです?まるで、他の方々は、国をどうでもよく思っているような口ぶりですね。」

「えぇ、なんだかそう感じるの。もちろん国王にも、マリナの件をお話ししたわ。メルセリウムも危機が迫っているだろうとも、共に国を守る手助けになりたいとも。でも、不要だと言われたわ。聖龍正教もあるし自分たちで何とでもなるから、お手を煩わせることはしませんって、中々に辛辣な言い方だったのも気になっているの。」

私の問いにレーネ様が教えてくれたが、なんとも不安な回答が返って来たものだと思う。

「調べるとね、メルセリウムは聖龍正教が国王以下ほぼ全ての国民にまで深く関与している節があるのよ。ほぼ全ての国民が信者みたいね。マリエルだけは聖龍正教に不信感を持っていて、国王からの一時帰国の要請にも応じていないそうよ。」

更なる不安要素に頭が痛くなると、レーネ様の表情が物語っている。

「聖龍正教・・・怪しいと思ってしまいますね・・・」

エレンの言葉に、その場の全員が頷いた。

「もし聖龍正教が万が一にでも魔物に関係しいたとして、メルセリウムが悪事に加担しているとしたら、助けられないかもしれない。多分、それでは助けようとして行っても、敵と見なされてしまうだろうな。」

レミネス様の言う通りだと思う。

だとしても、国王や重臣たちは兎も角、何も知らずに従っている民たちはどうするのだろう。

多くは無いかもしれないけど、心から信じているわけでは無い人もいるだろうし。

「では、せめてマリエル様だけでも、こちらで保護するということは出来ませんか?すぐに国がどうにかなる訳では無いでしょうが、マリエル様の踏ん張りもどこまで持つか。学校には一時帰国と言っておいて、こちらに来てもらい協力して頂くことは出来ないでしょうか?」

エレンの提案に、ロンデル様は頷き、精霊王様方は考え込んでしまう。

「マリエル様にこちらに来て頂く、国王を説得もしくは内情を教えて頂く。それから魔物がどう来るかの予測、国がどう動くかの予測、例えば国王以下重臣たちと民たちが魔物の仲間となるのか、奴隷状態になるのか、国外に出されるのか等ですね。も含め、民たちの避難や反乱などの考えられる限りの最悪までを想定することも少しは楽になるかと思いますし、何よりマリエル様が何かもっと出来ることがあったのでは。と、お悩みになることも軽減できるのではないでしょうか?」

エレンは、同じ王女としてもマリエル様の事を考えているみたいだ。

「わかったわ。やってみましょう。マリエルのところへ、貴女たちも来てくれる?」

レーネ様が来てほしいと言ってくれるなら、行かないなんて選択肢はない。

もちろん、と二人で頷いた。

因みに、学校への説明については、レーネ様が大丈夫!と太鼓判を押してくれた。

一体どうするつもりなのか、わからないけれどきっと大丈夫なのだろう。

いつの間にか、夜も更けていて途中で私たちの欠伸が連続発生したことで、切り上げることになった。

私たちは、ロンデル様と精霊王様方に挨拶をして、お風呂に向かう。

その途中、エレンが私に、話しかけた。

「アナ、私、とんでもないことを発言した気がするの。一国の王女の運命を変えようとしている気がする。本当にこれでいいのかわからないの。レーネ様が動いてくださるから後には引かないけど、不安でしょうがないわ。」

「エレンは、すごいと思うよ。すぐにマリエル様だけでもって言ったこと、素直にすごいと思った。私、遠くにいるなら大丈夫なのかなって思っちゃったし。考えれば大丈夫なはずないよね、王女という立場もあるんだし。まずは、会って話をしてみようよ。苦しんでるかもしれないし、助けが必要かもしれない。きっと、何かがわかって、何をすべきかも見つかるよ。マリエル様の運命が変わるとしたら、それは私も一緒に背負うよ。だって友達だし仲間だし、きっとロンデル様や精霊王様方も同じ気持ちだと思うよ。それに、最初に私たちの運命を変えたのは、魔物だよ。負けていられないじゃない。」

ね?と、エレンの手を握る。

拙い言葉だけど、一緒に頑張るよっていう気持ちが伝わってほしい。

エレンは、ちゃんと受け取って微笑んでくれた。

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