第24話 新たな出会い
「さぁ、行きましょう。先ずは、私の部屋だけどね。」
今日は、クシュ様の提案でマリナ諸島の巫女様に会いに行く日。
それがどうして、クシュ様の部屋なのかよくわからずに付いて行く。
「私の部屋からね、マリナに行くのよ。私たち精霊王と言われる存在はそれぞれ、加護を与えている国に限り門を持っているの。だから、マルレイにはシルビアの門から、ムンダイにはレミネスの門から、レーネの門はメルセリウムに繋がるわね。」
便利なものが存在しているものだ。いったいどれだけの魔力を消費するのか・・・
「では、ここからすぐにマリナ諸島に到着するのですね?楽しみですけど、少しあっけない気もしますね。」
エレンもそう思ったようだ。普通、国を跨ぐような移動には、馬車でひと月ほどかかる。馬で早駆しても半月ほど。その間に街を見て回ったり、その土地ならではの物を食べたりして道中を楽しむのが旅の醍醐味だと思うけれども、今回はそんなことをしている時間もないので、いつかちゃんと旅を楽しみたいと思う。
「そうね、ちょっとあっけないかもしれないけど、観光も少しは出来るわ。今度いっぱい案内するから今日は許してね。」
「楽しみにしておきますね。」
エレンも私の言葉に頷いたのを見て、クシュ様はふふっと笑うと、部屋の扉を開けた。
精霊王様方の部屋に入るのは、初めてだけど、私たちとそんなに変わらないように見える。机は書類がたくさん載るほど大きいくらいのものだった。
そんな部屋で異彩を放つのが目の前にある扉だった。
部屋の天井に着くほどに高く、優に4人が横並びに通れそうな幅がある。
部屋の中にあるには、異様な扉だった。
どこかお父様の執務室の扉を思い出していると、クシュ様が手をかざす。
光りだした扉が独りでに開いて、その先には靄がかかっていた。
「さぁ、行きましょうか。不安なら手を繋ぐ?」
小さな子供の様にクシュ様の左右の手をそれぞれ繋いでもらって扉を通った。
「わぁ・・・。本当にマリナ諸島に着いたのですね。海のにおいがします。」
私が言うと、エレンが言う。
「これが海の匂いなの?少し生臭い?私、海を見たことが無いのよ・・・」
「そうそう、少し生臭く感じるこのにおいよ。マルレイには、港町があったの。何度か家族で行ったことがあるから、絶対よ。」
懐かしい家族旅行を思い出して、少し切なさが沸き上がる。
楽しい思い出になるには、まだ少し時間が掛かるみたいだ。
「ここはマリナ諸島最大の島、首都ポーガを擁するホラン島よ。この島に、巫女ラノリアがいるわ。」
クシュ様が手を繋ごうと手を差してくれる。
「クシュ様、もう大丈夫ですよ?怖かったのは靄だけでしたし。」
そーなの?と不満げだが、まぁいいかと歩き出したので、後ろをついていった。
大きなお屋敷の前まで来ると、門兵がクシュ様に向かって声をかけた。
「クシュルール様、ララ様がお待ちです。どうぞ、そのままお通りください。」
「ありがとう。」
にっこりと微笑むクシュ様に頬を赤らめた門兵さんは、少しかわいく思えた。
やっぱり、大人の男性でもクシュ様に微笑まれたら照れるのね。
エレンと顔を見合わせて、小さく笑った。
門を通り進むと、左右に見事な表の庭があった。海風に強い種類なのか、見たことの無い花だったけれどとても丁寧に育てられているのがわかるほどに咲き誇っていた。庭を横目に進むと玄関があり、その前には家令と思われる初老の男性が立っていた。
「ようこそおいで下さいました。さぁ、ララ様がお待ちです。」
そういって、男性は、扉を開け案内してくれた。
玄関を入り大広間を左手に正面の階段を左に曲がりながら上がると長い通路が続いていた。
その最奥の2つ手前の部屋に通された。
そこは応接室らしく、豪奢な机と椅子が並んでいた。
正面には、水色の髪を肩辺りで切り揃えた可愛らしい少女が座り、その後ろには家令の男性が立つ。
「どうぞ、こちらにお掛けください。」
そう言って少女が自分の正面の椅子を示す。
私たちは、一礼をして、椅子に腰かけた。
「こんにちわ、クシュ様。初めまして、お二方。私は、ラノリア・ドール・ホランと申します。このホラン島領主ゴドル・ドーラ・ホランの娘であり、マリナ諸島連合国頭首セルトラン・ガーグ・トランを補佐する筆頭巫女を仰せつかっております。どうぞ、お見知りおきくださいませ。」
「初めまして、ラノリア様。私は、元ムンダイ国王女エレノーラ・ムンダイと申します。この度は、お会いできるのを楽しみにしておりました。よろしくお願いいたします。」
「初めまして。マルレイ国第一騎士団分隊長ゼロス・グランバルト伯爵が娘、アナスタシア・グランバルトと申します。同い年とお伺いしました。仲良くしていただければと思います。よろしくお願いいたします。」
三人が三人とも、挨拶を終えて、出されたお茶に口をつけた。
久しぶりの自分の正式な名前での自己紹介に緊張してしまった。
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