第23話 思惑
「でも、その考えだとしたら魔物にしたら、漁夫の利を得る好機ですよね?でも、大人しい。世には、聖龍正教なる者と行方不明者・・・。私には、難しすぎます!」
私は、さっぱり何が何やらで、机に突っ伏した。
「ふふふ。そうよね。私にも難しすぎるわ。」
レーネ様も笑いながら、私の真似をして突っ伏す。
それを見て、みんなが笑いだしてしまった。
「まぁ、とりあえず、今できることは訓練と修練と食事じゃな。ここで昼食にしようかの。」
少し大きめの食卓を出しながら、ロンデル様が言うと、昼食の準備が始まった。
お昼にきのこのクリームパスタを頂きながら、ふとマリナ連合国の事を思った。
「クシュ様、マリナ連合の巫女様はその後何か予言などはされていないのですか?今回の事でも、ひと月先の事でも、他でも。」
私の問いに、クシュ様が答えてくれる。
「えぇ、何度か観てもらっているのだけどね。どれの事も、暗闇に捕らわれてしまうのですって。つまり、先が見えないってこと。前の予言すら、まともに見えなくなったって言ってたから、用心と準備は入念に必要ね。」
「そうなんですね。きっと、不安な日々を過ごされているのでしょうね。お可哀想に。国の重責を担う心中、お察しします。お会いできれば、お慰めすることも出来るでしょうが、私たちにはお会いする術もありませんし・・・」
私の言葉に、クシュ様がポンッと手を打つ。
「そうよ、貴女達に会いに行ってもらえばいいのよ。術ならあるもの。なんで気付かなかったのかしら。簡単じゃない!あの子は、術者たちと結界を張る準備で国から出れないから、合わせてあげれないと思い込んでたわ。」
なにか、思いついてあれこれとそばに居た精霊さんに指示を出してぶつぶつ言っているクシュ様に、ロンデル様がとんでもないことを言う。
「なぁ、クシュよ。我も会いたいのじゃが・・・ダメかのぅ?」
「あなた、ここから動けないでしょうが。何を言ってるのよ・・・まったく・・・」
クシュ様の言葉に、目に見えて落ち込むロンデル様。落ち込んだ顔も長いまつげが伏せた瞳が愁いを帯びて美しい。願いを叶えて差し上げたいと思ってしまう。
だけど、どちらも動けないんじゃ無理だと思います。
「ロンデル様は何故、ここから動けないのですか?」
エレンが疑問を口にする。
「そりゃな、ロンデルがここから出ると、魔力の塊が突然降ってくるみたいなものだから精霊や人族の他にも魔力を持つ者全ての魔力が狂うんだよ。それにここの存在もロンデルあってのものだから、長い事留守にすると消滅する可能性があるんだよ。大昔の制約に縛られてるのさ。何千年かもっと前だったか前にロンデルは怒りで我を忘れて、世界すら壊しかけてるからな。」
レミネス様が教えてくれた。
恐ろしいことだ。魔力の暴走は、死すらあり得る。
いつの間にか家のように大好きになったここが、消えて無くなってしまうのも嫌だ。
でも、縛り付けられるのは可哀想だと思う。
「うーむ。そうじゃよなぁ、しょーがないのぅ・・・。では、お土産くらいは持たせるかの・・・」
しょんぼりと言うロンデル様のお土産が何なのか少し怖いが、美しい顔でそんなに悲しそうな顔をされたら請け負うしかない。
「もちろん、責任を持ってお届けしますよ。」
午後は、いつも通り訓練をした。
2人とも生活魔法は今では、当たり前のようになった。
剣と魔法の連携も取れてきて、弱体・強化と攻撃も上手く繋がるようになってきた。
本番では、精霊王様方を主体として行動し、私たちは支援と遊撃を任されることになっている。
支援のためにと魔法袋も一人一つ持たせてくれたので、出し入れを想定した戦闘訓練も混ざるようになった。回復だけでなく、罠や迎撃用の道具に野営道具までみっちりと万が一を考えて、どこでも生きていける様に訓練されていく。
少し前には、小さな兎や猪・鹿などの解体もやった。
学校では、習わなかった内臓や骨格まで教えて貰った。
二人して、涙を流しながら、腹を切り、内臓を取り出し、皮を剝ぎ、肉と骨を切り分け、食べた。口に入れるたびに嫌悪感、咀嚼して吐き気、飲み込んで嗚咽を繰り返した。
もちろん、盛大に吐いた。その日は、夕飯すら見たくなかった。
血や臓物、汚物に塗れた体を洗うのが、精一杯だった。
襲撃の日を思い出して、お父様たちや街の人々の亡骸や押しつぶされた学校、幼馴染たちの笑顔が頭の隅から出てきて、私を占領したみたいだった。
ずっと申し訳なく思っていたからなのか、思い出たちに責め立てられて怖かった。
泣いて逃げ出そうにも、帰る場所を失くしてしまったから。
布団を被っても泣いても寝れず、エレンと二人で湖で手を繋いで毛布に包まり、ロンデル様の籠の中に入れてもらって、やっと眠れた。
ロンデル様は、何も言わずに大きな体でくるりと私たちを抱き抱えてくれたから、安心感と温もりですうっと眠れた。
落ち着く魔法でも、使ってくださったのかな。と、思う。
それでも、命を奪うことと生きると言うことを学んだ日だった。
あの日からも、解体の日からも、私たちは強くなったと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます