第21話 魔法の授業

レミネス様の地獄の特訓とも言える、訓練が続く。

走り込みの後は、合図で速度に緩急をつける訓練、その後しゃがんだ姿勢での訓練、腹ばいになって進む訓練、どこの軍隊かと思ってしまう。

それでもまだ、序の口との事だった。恐るべし、鬼教官。

くたくたのヘロヘロになって、訓練用の服をドロドロに汚して、やっと訓練初日の午前が終わった。

流石に、お昼は食べたくない。と、思っていたけど・・・

目の前に現れた、お昼ご飯を見た瞬間にお腹が鳴った。

自分のお腹の素直さに、声を出して笑ってしまった。

エレンも一緒になって笑う。案外乗り越えられるのかもしれない。

お昼は、喉越しのいい冷製パスタだった。野菜がたくさん乗っていて、酸味が爽やかさに拍車をかけて、するするとお腹に消えていった。

午後は、魔法を習う。

さっきと同じ野外運動場に出て、先生となる精霊王様方によろしくお願いします。と頭を下げた。

今日は、初日と言うこともあって、魔法がどれだけ使えるかの確認と、生活魔法と攻撃魔法の違いについて学ぶことになった。

先生は、クシュルール様とレーレニス様。お二人は、名前が長いからと、クシュ様レーネ様と短くすることを提案してくれた。

ありがたく、そう呼ばせていただくことになった。

私にクシュ様、エレンにレーネ様が一対一で実技は指導くださると言うことになった。


先ずは、自分が今まで使用してきた魔法を順番にすべて見てもらう。

私は、風魔法を初級から順番に発動していった。

「つむじ風、かまいたち、風切、魔風槍、暴風旋、葬風嵐」

一息ついて他の属性も発動していく。

「水流、水球、水乱華、石礫、土竜潜、土隆壁、物理防御力低下、魔法耐性弱化」

一気に魔力が減るのを感じながら、さらに続ける。

「乱流旋風、石華散風」

全てを発動し終わって、魔力が底を尽きかけてふらつく。

「アナ、凄い。そんなにたくさんの魔法を使えて、それを全て発動する魔力量も持つなんて。」

エレンが、手放しで褒めてくれるから、照れてしまった。

でも、発動がすべてできたのは、ロンデル様からもらった、ルーベルグの腕輪の力のおかげと言うのが大きい。

ばらつきそうになる私の魔力を、確実に収束させてくれた。

今までは、複合魔法までこんなに楽に発動させられることなんて一度もなかった。

腕輪さまさまだと、そっとお礼を言うようにルーベルグの腕輪を撫でた。

次は、エレンが使える魔法を発動させる。

「腕力強化、脚力強化、自己治癒強化、物理耐性強化、燈火、炎這」

自己強化系の魔法を重ね掛けしていくと、エレンの体が陽炎のように揺らめいた気がした。

「なるほどね。二人とも、素晴らしいわ。ありがとう。少し休みがてら魔力の回復をしましょうね。その間に、授業をしようかな。」

私たちに座って休むように、クシュ様が手振りで指示してくれる。

素直に地面に座ると、少し楽になる。

「まず貴女達の使う魔法の起源について。元は私たちの使う精霊魔法を人族が使い易く改良したものと言うのが通説ね。貴女達は基本的に自分の体内に内包している魔力を引っ張り出して使っているの。精霊魔法は、私たちの場合は、自然に漂っている魔力を自分の魔力と同量混ぜて使う。貴女たちが精霊魔法を使おうと思うと、自然に漂う魔力を集めて自分の魔力と混ぜるために精霊の助力が必要になるわ。だから、自分の魔力の多いアナは、強い魔法を使えると言うこと。ここまでは、いい?」

「「はい。」」

「それでね、貴女たちに精霊魔法を、使えるようになってもらいたいの。今現在、精霊魔法を知っている人族さえ少ないわ。そして、精霊はそれを悲しんでいる。昔はもっと精霊魔法使いは一般的に居たし、人族と精霊はもっと仲が良かった。だから、精霊に好かれる貴女たちに覚えてほしい。精霊は、人族が基本的に好きだから、仲良くしたいの。覚えてみてくれる?」

「私たちが、ですか?使えるようになるでしょうか?それに、ちゃんと精霊さんたちは協力してくれるでしょうか・・・」

エレンが、私の思ったことをまるっとそのまま言ってくれた。

「大丈夫よ。精霊に好かれる人族なら基本的に使えるものだし、貴女たちが精霊に好かれてないならここにいないわ。安心して。」

よかった、嫌われないのが嬉しい。精霊魔法が使えれば、2倍以上の威力、もしくは半分の消費魔力で済むかもしれない。エレンの魔法の強化にもなる。

エレンも同じことを考えたみたいだった。ぐっとこぶしを握り締めてクシュ様を見つめた。

「覚えたいです。教えてください、お願いします。」

エレンが下げると同時に、私も頭を下げて、教えを乞うた。

クシュ様もレーネ様も、嬉しそうにこちらこそと、言ってくれた。

そこからは、通常の生活魔法の習得に簡単なものから取り掛かっった。

私たちは身分のおかげで自ら生活魔法を使うことがほぼ無かった。

だから、クシュ様もレーネ様もこれからを考えて教えてくれる事になったらしい。

浄化や、洗浄、消臭、という衛生的なものから、火起こしや送風や冷風温風の使い分けなど、消費魔力の少ない生活魔法は多岐にわたる。

生活魔法は想像力がモノを言うと教わった。

午後は、生活魔法の習得と実践で初日を終わる。

精霊魔法は、なるべく近いうちに始めることにすると言ってもらった。

私たちはお二人にお礼を言って、自室に戻った。

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