第19話 乙女心
一つ目の箱に入っていたのは、運動用のストンとしたズボンだった。
腰の位置で紐を結んで止める仕様になっていて、動きやすそうだった。
履き心地は抜群で、さらさらとした肌触りが癖になりそうだった。
二つ目の箱は、運動用のシャツ。
華美な装飾はなく、ボタンで前身頃を止めるだけのものだが、こちらも極上の肌触り。
汗を吸って即時発散させる仕様になっているらしい。
運動用のシャツとズボン、どちらにも物理防御・魔法防御・防汚・防臭の魔法付与・・・ありがたいです、特に防汚・防臭が。
三つ目には、靴が入っていた。これも、単純な造りだが、履き心地は抜群で使用されている素材自体が軽く丈夫なものであると教えてもらった。
因みに、靴に付与されているのは、体力向上と疲労回復、防汚・防臭だそうだ。
こちらも、乙女にありがたい付与がされていて嬉しくなる。
防汚・防臭の付与を提案してくれたのは、クシュルール様だと言う。
今度、誠心誠意お礼を言いたい。
「どうだったかしら?何も問題は感じなかった?不満は、ないかしら?」
「ありませんよ。とても動きやすくて、着心地も抜群でした。出来れば、同じ生地で寝間着も作って頂きたいくらいです。」
「寝間着?寝るときの服よね。さらさらとした生地が好きなの?」
「はい。あの生地の肌触りが、とても好きです。」
小さなわがままを言ってしまったけど、マルタさんは、にこにことどんな形がいいのか、どんな色が好きかなど、細かく聞いてくれて作ってくれると言ってくれた。
「では、細かな修正をしたら、シャツとズボンを3着と靴を2足、持ってきます。寝間着は、寝るまでには持ってきますからね。」
「ありがとうございます。でも、無理は、しないでくださいね。寝間着は私のわがままだし、エレンの分もマルタさんたちが作るのでしょう?」
私の心配に、ふんわりと微笑んで大丈夫よ。と言って去っていった。
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「夕飯は、何かしらね。楽しみだわ。」
私は、一緒に食堂に向かうアナに話しかけた。
さっきまで私の部屋で、試着の時の寝間着の話や、防臭の発案者がクシュルール様な事にレミネス様では思いつかないだろうと笑いあったり、これからの訓練への期待と不安などを話していた。
赤毛の精霊さんが、夕飯の用意ができたと呼びに来てくれたので、そのまま二人で廊下を歩いていた。
「そうね。新しく作ってくれた食堂だし、ちょっと嬉しくなるよね。でも、してもらってばかりで、申し訳ないな。」
「うん。すごく私たちの事を考えてくれているわよね。食事も服も、部屋に装備に訓練に。ねぇ、アナ。」
ん?と、アナが私を見る。
「頑張ろうね。絶対、マリナの人たちを助けよう?最近、私、祖国のみんなの事を思い出すの。自分だけ助けられて、こんなに良くしてもらって、申し訳ないなって。だから、助けられなかった後悔を繰り返したくない。」
俯いてしまった私を、アナが足を止めてそっと抱きしめてくれた。
「私も、同じことを思ってるよ。申し訳ないって、助けられなくてごめんねって、両親も弟も幼馴染たちも、きっと怖かったし痛かったはずだから。」
「うん。うん・・・頑張ろうね・・・」
私もそっとアナを抱きしめた。
同じ気持ちで頑張れる仲間がいる。私は、頑張れる。
それが、嬉しくて涙が出てきた。
涙目のまま、二人で笑いあって、手を繋いで食堂まで歩いた。
食堂につくと、扉は開いていて中からロンデル様が手招きしていた。
円卓の空いた席にアナと隣り合って座ると、反対隣りにいるレーレニス様がにっこりと微笑んで目に手を当てた。
少しひんやりしたと思ったら、すっきりしていた。
レーレニス様を見ると、片目をつぶって優しく微笑んでくれた。
泣いたこと、ばれちゃってたんだ。何も言わずにいてくれたことが嬉しい。
こんな風に優しい人になりたい。
アナを見ると、アナも隣のクシュルール様に同じことをしてもらっていた。
きっとみんな気付いているのに、本当に優しい。
期待に応えて見せる、そう固く心に誓った。
夕飯は、シチューと白パン、野菜サラダにデザートが付いた。
どれも国で食べていたのと遜色ない、むしろもっとおいしいくらいでアナと二人、ゆったりした服でよかったよね。と、笑いあった。
デザートが出てくると別腹が発動して、チーズケーキと紅茶がお皿からきれいに消えてしまった。
食べ過ぎな自覚はあったけど、美味しくてせなかった。残すなんて選択肢は、元より捨てていた。
ロンデル様と精霊王様方に笑われても、アナと二人で大満足の食事になった。
「今日は、色々あって疲れてるだろうから、風呂に入って休むといいわ。そうそう、お風呂ねぇ、お空が見えるように再改装してもらったから、とってもくつろげるわよ。浴槽?に、浸かって空を見てみてね。」
シルビア様からの提案に、大きくうなずいていそいそとお風呂に向かった。
さっき見たよりも、開放的に改装されたお風呂で、アナと髪の洗いあいっこをしてみた。
アナの髪は長くて、艶やかで柔らかくて、洗っているこっちが気持よかった。
アナは、たまに弟の髪を洗っていたと言っていた通り、洗い慣れていて、これまた気持ちよかった。
二人で浴槽に浸かり、空を見上げると、同じようにため息をついた。
シルビア様の言う通り、宝石を砕いて夜の色の布に散りばめた様に美しかった。
今日は、ぐっすり寝れる気がする。
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