第17話 聖龍様のとっておき
キラキラと光る渦の中に吸い込まれた。
あっと思う間もなく、どこかに自分がふわふわと浮いている。
闇色の霧が広がる空間。不思議と怖さは無くて、むしろ安心する母親の胎内を思い出すような気がした。
そこには、たくさんの武器や道具やアクセサリー、日用品に用途のわからないものが私と同じように浮いていた。
同じ剣でも形や色や装飾が一つ一つ違っていて、見本市みたいで楽しくなってくる。
くるくると周りを見ていると、その中に一つ何かが光っていた。
途端に、その光を手に取りたい衝動に駆られる。
泳ぐようにたくさんの物たちをかき分けて、急いで光る物の傍まで来た。
それは、一本の杖だった。普通の杖のように先が細くなっておらず、持ち手と呼べる部分も見当たらない。杖と言うより棒。でも、杖だと思った。
そっと触れてみると、触れた瞬間に輝きを増して、すっと輝きが消えた。
輝きの消えた杖は、ふわりと手首に巻き付いた。
驚いて手首を見ると、木の風合いと木々の間を風が吹き抜けている様な繊細な線の模様、涼やかな薄い翡翠色の宝石が幾つか散っていて、美しかった。
しっくりと手首に馴染むのに、軽くて付けていないかと思うほどだった。
すべすべした手触りに夢中で撫でていると、遠くでチカチカと光るものがある。
何だろうかと、目を凝らすうちに光に引き寄せられた。眩しくて目を閉じると、一瞬ふわっと浮いた気がして目を開けた。
「戻ったのぉ。ほぅ・・・神龍樹と精風石の腕輪か。確か、ルーベルグの腕輪だったか・・・?良いものを見つけた様じゃな。その腕輪は、お主のもの。大事にしてやるといい。そう言えば、そやつは人格はないが感情はあるぞ。ぞんざいな扱いをすると拗ねるでな。気をるけるのじゃ。」
キョトンとしている私を見て、エレン以外の全員に笑われた。
私の腕には、さっきの腕輪が嵌まっていた。
エレンは、どうしたらいいかわからない風で固まっている。
「言ったろ?とっておきをくれるんだとさって。それな、ロンデルとシルビアが作ったやつだったはずだぞ。」
と、レミネス様の言葉。確かに言っていました。とっておき。気になってました。でも、聖龍と風の精霊王の合作とは・・・
「そうよぉ。私が大きな魔石を見つけて、どこまで出来るか試したくて魔力を注ぎ続けて割れちゃった欠片と、ロンデルの寝床に生えたロンデルの魔力で育った木をロンデルが羽をぶつけて折っちゃった枝を・・・こうっ、くっ付けてみたの。勿体なかったしねぇ。」両手で、がすっとかなり雑な合体させる手ぶりをして見せてくれるシルビア様。
余計に固まりますが・・・勿体ないで、そんな雑に国宝よりも価値のあるものが出来た経緯に驚きです。
「本当に、頂いてもいいのでしょうか?」
「良い良い。我らの作ったものは、一部が人の子の国に保管されておるが、昔から何故か何かと争いの種でな。我がほどんどを仕舞い込んでおったのだ。使ってやってくれ。その方が、それらも幸せであろうしな。」
「ありがとうございます!!大切に致します。あ、でも、最初は棒のような杖だと思ったんのですけど、腕輪なんですね?」
「最初は杖を作ると言っておったでな。自分を杖だと思っておるんじゃろ。腕輪の形になってなかったのは、単に暇すぎてだらけ過ぎた姿じゃろうな。」
そんなものなのか・・・暇でだらけて棒になる腕輪・・・面白過ぎる。
「よろしくね。ルーベルグ。」
語りかけて撫でると、ふわっと風が私の頬を撫でた。
ロンデル様は龍の顔ではわかりにくいが、微笑んでくれたのが周りの空気でわかる。
そして、次はエレンだと言うようにエレンを大きな瞳で見つめた。
私と同じようにお腹に鼻先を当てられて、きっと今何かが体中を巡っているのだろう。
仄かに、エレンの体が光っていた。私も、さっきは光っていたのかな?エレン、きっとびっくりしただろうな。
鼻先がお腹から離れたと思ったら、エレンが前のめりにロンデル様の鼻先に向かって倒れた。エレンが困惑の表情だったのは、これか・・・
そりゃ、どうしたらいいかわからないよね。精霊王様方、何にもないような顔してるし、ロンデル様は楽しそうに目を細めてるし。
しばらくすると、エレンがロンデル様の鼻先から起き上がった。
その手には、華奢だがしっかりとした造りの細身の剣が握られていた。
「ほぅ、お主はゲルガンの剣か。それの刀身にはレミネスの髪の混じった精霊白金鋼が使われていたな。柄には、我の生え変わったの爪を使っておったの。」
「凄く惹かれました。まるで吸い寄せられるように。」
エレンは、剣に頬ずりする。まるで、恋する乙女の様だ。
「ゲルガンがお主と共に戦いたいと思ったんじゃろう。刃こぼれなんぞは、滅多にせんじゃろうが、磨いてやると喜ぶのう。高い矜持の持ち主じゃから褒めて伸ばせば、無二の剣となって名を轟かせるじゃろ。大事にしてやりなさい。」
「ありがとうございます!!一緒の頑張ろう、ゲルガン!」
剣が甘やかに輝いた気がした。
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