第15話 転居

和気あいあいとした雰囲気の中で食事が終わると、飲み物が変わって紅茶になる。

全員に配られるのを待って、ロンデル様が話し出した。

「アナ、エレン。昨日話すと言っていた事だがな、お主等はここに引越じゃ。部屋をいくつかと、食堂に厨房、湯あみ処に遊戯室なんかも作ろうと思っているが、改善案は二人とも出してくれるとありがたいのぉ。あと、ちゃんと人族の食事を作ったり出来る者を連れてくるでな。安心するがよい。今までのようなことは無いと約束しようぞ。」

ロンデル様の言葉に、ぐるっと精霊王様方を見渡す。

「そんな不安そうな顔をするな。俺たちも頻繁に来るし、ここにきているセイレン・ガルラとクシュの所のサリアとレーネの所のマルタが、このまま残るから。ほかにもたくさんの精霊が来るし、ちゃんと訓練場も作って訓練も今まで通りだ。」

不安な顔をしていたのか、レミネス様が今まで通りだと声をかけてくれる。

「そうよ、私たちも基本的にはなるべくここに居る様にするから、安心していいわ。」

レーレニス様の言葉に、シルビア様とクシュルール様も頷いてくれた。

「それにね、ここはロンデルの居城で聖龍の聖域と言う隔絶された場所だから、魔物も来れないわ。ここ以上に安全な場所なんて私たちですら知らないのよ。」

にっこり笑ってクシュルール様が教えてくれた。

「聖龍の聖域・・・・始祖龍の住処・・・・」

気が遠くないそうな恐れ多い単語に、脳がふらつく。

隣に座るエレンを見ると、脳内処理が追い付かないのか口が半開きになっていた。

「これ。お主等呆けるのはまだ先じゃ。まだ話があるでな。」

ロンデル様に窘められて、気を持ち直す。

「これから、お主等には、大急ぎで力をつけてもらう。ここにおる4人がそれぞれ教えてくれるでな、精進せよ。と言うのもな、クシュルールの加護のあるマリナ諸島連合国で不穏な動きがあるそうでな。」

「私が話すわね。知ってるかもしれないけど、マリナ諸島はいくつもの島から成る海洋国家で、海産が有名ね。マリナ連合国には、頭首と呼ばれる長がいて、その長を補佐する巫女がいるの。魔力の強い女の子が選ばれるわね。そして、現巫女の子が不穏な予言をしたのよ。」

クシュルール様が、説明を引き継いだ。

「その巫女曰く、赤く丸い月が上る夜 無数の黒い鳥が空を覆い 地上が赤に染まる 助け手は嘆きと後悔に沈み 海はすべてを飲み込む 一条の光が差し込むのは朝 歴史が動き 伝説が紡がれる・・・・・今回、貴女たちの国に起こったことは世界的に見れば南半分で起こったわ。そして、次はマリナ諸島のある北側で起こるのじゃないかと思うの。きっと、マリナ諸島だけでは無いと思うわ。」

美しい顔に慈愛と不安を混ぜてクシュルール様が語った予言の言葉は、最後に希望を残していた。

「そして、多分だけれど、私たちの見解では、精霊王の加護があるとされる土地が大掛かりな戦に巻き込まれていると思うの。つまり、私たちとロンデルへの挑戦状ってことになるわ。だから、狙われる可能性がある最後の一国、レーネが見守る北壁の大地・メルセリウムにも魔物の進行があると思うの。」

「それを、何とかして止めることができればと思うわ。だから、貴女たちにも力を貸してほしい。この通りお願いするわ。メルセリウムとマリナ諸島を一緒に助けて。」

クシュルール様の後を引き継いでレーレニス様とクシュルール様が私達に深く頭を下げた。

「やめてください。頭を上げてください!!」

慌てて止めて頂く。

精霊王様方に頭を下げられるなんて、恐れ多すぎた。

そんなことをされるような偉大な存在ではない私たちは、互いに顔を見合わせて困ってしまう。

「精霊王様方のお力になれる程の力が、私たちにあるとは思えませんが・・・」

エレンが、困惑気味に言う。その通りだと、精霊王様方に私も頷いた。

「そこは、我も力を貸そうぞ。直接人の子の世に干渉は出来ぬが、我の力の一端をお主等に貸してやることは出来るでな。それに、人の子には我やこいつらでは、してやれないことも多い。一緒に行ってやってほしい。」

ロンデル様と精霊王様方が、突拍子もないことを織り交ぜながら懇願するように見つめてくる。

はっきり言って、人の姿をしているロンデル様も精霊王様方もずるいと思う。

麗しい麗人達に、上目使いでウルウルと懇願されて断れる人間がいたら教えてほしい。

私はエレンの方を向いて、目だけでどうする?と問う。

エレンは、私を強い瞳で見つめていた。

一つ頷くと、ホッと頬を緩めて、前を向く。

「私たちがどこまで出来るか分かりません。戦力的には足手まといでしょう。それでも、私たちを助け保護してくれた皆さんと共に、私たちのような悲しみを減らすことに協力できるなら、私はお手伝いがしたいです。」

「私も、同じ気持ちです。一所懸命、精進します。私たちを鍛えてくださいますか?」

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