第13話 湖の煌めき

精霊王達が真面目な顔で真面目な話をしている頃、二人の少女は湖に到着していた。

「綺麗ね・・・アナ」

「えぇ、エレン。これは精霊王様方も自慢しますね。依然としてここがどこだかわからないから、持ち主もわかりませんけど・・・」

道すがら、故郷で何があったのか、それからどう過ごしていたのをすり合わせて喋りながら、仲良くなって敬称は無しとなっていた。

エレンは魔物襲来と共に、国外へ逃がれることになり極秘回廊から脱出を図ったが、兄の待ち伏せにより護衛15名の命と引き換えにレミネス様に保護されて王都奪還のために訓練を開始したとのこと。兄への恨みは在れど復讐ではなく謝罪と献身を求めていた。

「私はね、レミネス様の加護を受けながら魔力が小さくて王家のみそっかすだったの。だけど、民たちは私を受け入れて愛してくれた。だから、民たちを守りたくて剣を学んだわ。保護されたときに、王家の一員として誓願叶うまで王女のころの格好はしないと決めてバッサリ切ったのよ。切ってとお願いしたら、レミネス様が男の子みたいにしちゃうんだもの。さすがに悲しかったわ。でも、よかったと思ってるの。今となっては、あれがレミネス様からの激励だったんだわ。」

湖を渡る風に爽やかに短い髪を靡かせながら笑うエレンは、流石に王家の血を引いていると思わせる決意に満ちた格好いい姿だった。

「私は、運動は好きだけど剣は護身程度ね。魔力が多いこともあったし、頭を使うのも嫌いじゃないから。魔法陣の解析とか好きかな。王家の血は薄いけれど、母譲りの魔力には感謝してるの。風属性なら学校一の理解力だったのよ。実践はまだ、杖の補助なしじゃ安定しないけど。」

杖を振る真似をして見せると、エレンは笑ってくれた。

「二人で頑張りましょう?一人より楽しいし、頑張れるわ。」

そう言って、手を握ってくれた。目を合わせて笑っていると、風が強く吹いた。

湖から吹いてくるようで、そちらを向く。


「小さき人の子らよ。好ましい風を吹かせているね。」

声の主を探そうとするが、風と光が渦を巻き見えない。

「すまないね。力を抑えるのが久しぶりで、まだ上手くできないのだよ。」

許しを請うように一陣の風が二人を包むと名残惜しそうに消えていった。

湖を見ると、光が風に乗って集まり形を変えていく。それは次第に、湖の上に真っ白な龍を出現させた。

この世界で龍は、数種しか存在を知られていない。

魔物として存在しているものは、龍になれなかった失敗作の偽物だといわれている。

そして、目撃情報が過去に一度でもある正龍は、属性の名を冠する火炎龍・水龍・地龍・風龍の属性龍4種と、それに対応した色彩の名を冠した赤炎龍・青晶龍・緑森龍・黄嵐龍の4種の計8種。あとは、誰もが知っている神話の始祖龍で白銀の瞳に純白の体を持つ聖龍しかいない。

目の前にいるのは、まさに純白の光の塊のような龍だった。

「あ・・・・なた・・・は、えっと・・・聖龍様ですか?」

先に茫然自失の状態から回復したのは、アナだった。

「如何にも。私は、始祖龍・聖龍などと呼ばれているな。だが、ちゃんと名前もあるのだよ。今では精霊王と呼ばれている者たちが遥かな悠久の昔に付けてくれた名が、な。」

「失礼しました。われら人族にはその尊名が伝わっておらず、申し訳ありません。」

元王族としてか、意外にもしゃんとした対応でエレナが謝意を伝える。

「かまわんよ。遠い昔の話だ。伝わっていなくても不思議はない。私はここでだいぶ眠っていた様だしな。そうだ、良ければ話し相手になってくれないか。世界がどうなっているのかも知りたい。あ奴らは何ぞ話し合いをしている様だし、構ってはくれまいからな。」

断るなどと言う選択肢は端から考えもせずに、自分たちが知る限りの歴史から今の状態までを聖龍様に話した。

随分時間が過ぎて、喉が渇き少女の恥じらいも虚しく腹が鳴るころに精霊王様方がやってきた。

「懐かしいわね。ロンデル。何千年ぶりかしら。」

クシュルール様の言葉に、ふんと鼻を鳴らして聖龍ロンデル様が答える。

「お前たちこそ、我の目覚めを知ってもすぐには来ぬ薄情者たちではないか。この子らにたくさんの話をさせてしまったぞ。この子らの喉を腹を潤し満たすものを今すぐに用意せよ。」

オベロン様の言葉に、わかっていると示すように食卓が用意され、色とりどりの果物が所狭しと並んだ。いつくかの果汁やお茶も用意され、豪華なものとなった。

「君たち待たせて悪かったね。ロンデルのわがままにも突き合わせてしまったし。

セイランが大慌てで知らせてくれたけど、話し合いが煮詰まっていてね。申し訳なかった。さぁ、たくさんお食べ。」

レミネス様が進めてくれるままに、果物を口に運んだ。お腹空いていました。

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