第7話 出会う
「ここは、どこよ………王都は、どこに行ったのよ……」
私は、自分の声を最後に意識を手放していた。
今日は、晴天だったはず。
なんでこんなに、真っ暗になったんだろう…
体中が痛い。目が痛い、のどが痛い、手が足が心臓が痛い。
周りを見渡せば、瓦礫しかない。
ここは王都だったはず。たくさんの人がいたはず。
ここにあるはずのたくさんの音が、色が、においが何もかも無くなっている。
どうしてこうなった?なにがあった?私はなんで、こうしている?
手のひらを見る。擦り傷でじんじんしている。
倒れた時に手をついたから。この大通りに敷かれた道の石で擦り切れたんだ。
血の滲んだ私の小さな手、お父様とお出かけしたときに繋いでもらった手。
重たいものを持つことも、傷を作ったことも無かったのに。
涙が溢れる。なんで泣いているのかなんてわからないまま、手のひらの擦り傷に流れて落ちる。痛い。
涙が何かに拭われる。お父様?お父様なの?お母様とアレンは、どこにいるの?教えて。何があったの?どうしてこんなに暗いの?
「もう少し眠りなさい」
お父様より少し高い優しい声が聞こえた気がした。
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
「おや、起きたかい?」
目を覚ますと、天井が見えた、それよりも少し低い位置に目を向けると、御伽噺の精霊のような美形さんが居た。
「あなたは誰?」言いかけて、声が出ていないことに気づいた。
ハッと喉を抑え、ハタと考える。
ここはどこで、この人は誰で、私はどうなったのか……生きている。息をしている、手が物を触れる、耳も聞こえる、ほんのりお腹も空いている、こうなる前の記憶はある。でも、声は出ない、喉は乾いている、手には傷がある、足は痛い。
とりあえず、助けて貰ったという事でいいのかしら?
首を傾げて考えていると、顎に細い指が伸びてきて私の顔を色々な方向に動かし始めた。
「………????」
「うん、大丈夫みたいだね。細かい傷はすぐに勝手に治るから治さなかったよ。そして、ボクはセイラン。それだけ覚えていればいいよ。お腹が空いてるんじゃない?果物があるよ。それから、喉は煙でやられてるから、しばらく声は出ないと思うよ。体内から危険なものは取り除けたはずだけど、君には色々と治す時間があった方が良さそうだしね。」
矢継ぎ早にたくさんの情報を、流し込まれた気がする……
寝起きでぼんやりとしか見ていなかったが、情報をまとめるために頭を回転させると、セイランの顔の造形にまで頭が回ってしまった。薄い翡翠のようなすっきりとした細長の瞳、長く伸ばされた絹のような艶の輝く銀髪、顔の彫りは深くなく、なんと言うか…まぁ美しい。こんな状況でなければ、多分……私の心は囚われていただろうな。あ、お礼言わなきゃ。
「……あ…」
お礼を言おうとして声が出ない。
どうしたものかとセイランを見ると、フッと微笑まれた…私赤面してないかしら………
「お礼ならその顔で貰った。もぉ、いいよ。まず君は、食べて、寝て、体を休めることを優先しなよ。」
そう言って、大きめのぶどうに似た果物を差し出された。
その顔ってどんな顔よ…恥ずかしい……あ、美味しい………
コロコロした果物がプチッと口の中で弾けて、広がる果汁が薄甘くて喉を潤してくれる。その後は、止まらなかった。私が食べている間に、セイランは簡単な状況説明をしてくれた。
曰く、瓦礫にまみれた王都で1人倒れた私をたまたま魔物の動向を見にいけと言われてやって来たセイランが見つけたこと、とりあえず生きているからと連れて帰ったこと、私の周りに生存者が居なかったこと、王都だけでなく王国がほぼ壊滅し、逃げ出せた人は居るが難民としてさ迷っていること、そして他にも壊滅に追い込まれた国が幾つかあるようだとも。
お腹いっぱいまで、食べてしまった。そして、あくびが出てくる。
「寝なよ。また、食べる物は持ってきてあげるからさ。水はここに置いておくよ。」
じゃ、またね。と、手を振ってセイランは、部屋を出ていった。
眠気に逆らえずに、落ちていく。
………?ここは、どこだっけ?目を覚まして、見渡す。真っ白な部屋、真っ白な小さな棚、透明な水の入った水さし、セイランが寝かせてくれている部屋だ。
セイランの言葉も思い出した。誰も生きていない…お父様もお母様とアレンも、ジュリアもユージンも、ジュリアが助けた男の子も学校の皆も先生方も…。
あれ?王太子殿下は?難民の中に紛れて逃げ延びられたのだろうか?
悲しみも不安も、疑問も湧き上がって溢れてくる…押し寄せる波のようにきっとずっと消えない気がする…
気分を変えたくて、寝台を降りてみた。膝が笑ってガクッと座り込んでしまった。情けない。一体どれだけの時間が経ったのだろう。この白い部屋には窓も無いし、さっぱり時間が分からない。場所もわからない。扉を出たら景色も変わるかしら。
ヨタヨタと笑う膝を叩いて力を込めて立ち上がった。体力も無くなってるかな。扉までたどり着く前に疲れてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます