第3話 衝撃

ドカンッ

衝撃で机に体が当たる。

「ったぁ~」

あちこちから悲鳴が聞こえる。

学園は大きいく敷地は、広い。それでも、何かの衝撃が伝わってきている。

王都で何かが起きている。

我が家は、マーキス家は、ジュリアは、無事だろうか。

家には、お母様とアレンがいる。お父様は、今日は王城にいるはず。

考えながらも顔を上げてユージンを見ると、窓の外を見ている。凝視している。

「・・・?」窓の外を見ると、あり得ない光景が広がっていた。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


お父様の訃報を聞いて、泣き崩れて家に帰り、お母様と抱き合ってしばらく泣いていた。

今後の手配や、行動の相談を家令のジムとお母様と話し合っていた時だった。

大きな衝撃と大きな揺れ、大きな音がして外を見た。

「きゃ~!」「たすけて!」「おかあさ~ん!」

王都には、今未曽有の危機がぜまってると言いて過言ではないだろう。

我が家から見える窓の外には、空を覆わんばかりの魔物の姿が見える。

こんなにたくさんの有翼種を見たことはない。

もちろん、魔物自体もほとんど見たことは無いし、有翼種も剥製と捕らえられたものを一度ずつ見たことがあるだけ。

突然のことに、心臓が止まりそうだった。

遠くの魔物の口が開き、中に真っ赤な塊が見える。ここからでは、小さな球体にしか見えないけれど、建物との対比をみれば大きな魔物であり、その口にある球体も私の頭くらいは優にありそうだと思った。

ああ・・・飛んでくる・・・あの燃え上がる球体が・・・

何も考えられずただ見ていた。でも、すぐに状況は変わった。

貴族街にある我が家の居間の窓から、この地区に居るはずがない姿が見えた。

何も考えられず走り回って逃げて、ここが貴族街とも思っていないだろう小さな男の子。

身なりは、ボロボロで平民街の端にある孤児院の紋章が入ったベストを着ている。こちらに向かって走ってくる。その後ろには、有翼種の魔物が先ほどよりも大きく見える。

口からは、今にも吐き出されそうな真っ赤な球体がはっきりと見えた。

「ダメッ!」間に合わない!

窓に向かって走っていた。窓を開けて、身を乗り出して手を伸ばした。

男の子は、私を見つけて必死に手を伸ばす。もう少し。

手が触れた。しっかりと掴んで引っ張った。窓を乗り上げ体ごと突っ込んでくる。

「あ・・・あ・・ありがと」

小さな体が震えながら、声を絞り出す。

「まだよ。お母様、ジム、逃げましょう!!さあ!」

「どこへ!あんなものから逃げられると思えないわ!」

助けた男の子を抱き上げて、お母様に手を差し出すと、手を掴みながら困惑気に問いかけられる。

「学校へ。近いし、校門はしっかりしている。ケガだって先生がいるし。きっと、魔物だって。」

ジムにお母様の手を預け、玄関へ向かう。

「行きましょう!!」

走れば、すぐに見える学校の門を目指す。滅多に走ることのない貴族でも命がかかれば否応なく走る。お母様は、体を動かすことを好まない方だけれど、我慢してもらう。

学校で運動競技の授業があってよかった。男の子を抱っこしていても走れる。

ジムにはお母様を任せているし、お母様は走ることに必死だし、男の子は震えてしがみついている。もう少し、あと少しで学校につく。


「開けて~~!!」高貴な子女らしからぬ大声に、門番が気付く。毎朝挨拶をしてくれている人だ。

飛び込むよに開けられた門をくぐった。何人もの先生方が出てくるところだった。

皆が一様に空を見ている。その先には、有翼種の魔物。

「来ます!!」ゴルド先生がその身と変わらぬほどに大きな剣を体の前で構える。

基本魔法科の先生と教頭先生、ほかの先生たちも臨戦態勢になっている。

「こっちへ。さあ、早く!」

知らない先生に言われて、4人で校舎になっている建物に向かった。

ちらりと振り向くと、火球が飛んできていた。

怖いっ!暑さが襲ってくるようで、ただひたすらに走った。

ドンッ

校舎を目の前に、振り向くと火球は杖を構えた教頭先生を体ごと押しながらも半透明の膜の前で止まって消えた。

それを見てほっと息を吐いて、校舎に入る。

やっと一息つける。ずっと抱いていた男の子を腕から降ろす。

「大丈夫?ケガはない?」

「うん、大丈夫だよ。お姉ちゃん、ありがとう。」

よかった。ちゃんと元気そうだ。

「ねえ、あなた、お名前は?孤児院の子よね?」

「ぼく、ハンだよ。孤児院に住んでる。」

ハン君は答えてくれたけど、俯いてしまう。ほかの子たちが心配なのだろうと思う。

けれども、私には今のところ何もしてあげられない事が悔しい。

なにもしてあげられない自分が情けなくて悔しくてハン君を強く抱きしめた。

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