第2話 遠い日

歴史の新しい先生は、少し神経質そうな男性でやはり喋り方や授業も神経質な感じだった。先生が変わっても、やっぱり歴史はつまんないな。創世の話は、小さい頃から聞いていたから覚えちゃったくらいだし、歴代国王とか覚えられないし、貴族社会も本当はめんどくさいと思ってる…

そんなこんなでグダグダと午前の授業を受け、お昼休みになった。

昼食は全員が食堂で食べる。流石に、ごちゃ混ぜになって食べるのではなく、王族と貴族・平民はお互いの為にも違う空間になる様に席が決められている。

私とジュリアとユージンの3人は貴族席に向かう。

親同士が友人関係で小さい頃から知り合い、10歳からは初等部の3年間と中等部の3年間を共に過ごした、気の置けない2人と食べる方が私も気が楽なので、貴族席の存在は案外と有り難かった。

いつも通り日替わりのコースを選んで食事を取っていると、担任のゴルド先生が食堂に表れて一堂ざわざわし始める。ゴルド先生は、気にする素振りなくと言うよりは構っていられないと言う雰囲気で早足にこちらにやってくる。

その表情から、悪い知らせな気がしていた。


「ジュリア・マーキス。」

「はい。」

ゴルド先生は、ジュリアを神妙な面持ちで呼んだ。いつもより声が小さい。

私の隣の席を立ち、先生の隣まで行くジュリア。一瞬二人ともが躊躇うような表情を見せたが、小声で話し出した。こちらまでは聞こえてこないが、私の斜め前に座っていたユージンは、ジュリアの表情が曇るのを何とも言えない顔をして見ていた。

「そんなっ!」

突然その場に崩れ落ちたジュリアにユージンが飛ぶように近づき私たちよりは大きな手で支えていた。素早い行動だと感心してしまう。

私も席を立ち、そばに向かう。先生は、申し訳なさそうな顔をして様子を見ていた。

「ジュリア、どうしたの?」

泣き崩れてしまうジュリアをユージンと支えながら、ジュリアの声を待つ。

ずっと肩や背中をさすっていたけれど、しばらく時間が必要な様だった。

その間に、ちらちらとこちらを覗いていたほかの生徒を先生が蹴散らし、なるべく早く家に戻るようにとジュリアに言い残して、新しい情報がないか確認をしてくると戻っていった。

私は、やはり悪い知らせだったのだと思った。


最近の王都は、不穏な空気が漂っていた。魔物が近隣に出没することが増えたのだとお父様が言っていたのを思い出す。魔物は、瘴気をまとい狂暴化した獣や昆虫類からなる魔獣魔虫と上位種に進化した闇に落ちた人間からなる魔人など様々な種類がいる。普通の獣や人間との違いは、血の色が闇に染まることと身に受けた瘴気が体内で凝固してできる魔石を持っていること。太古の昔から人々を恐怖に陥れる最たる存在だった。魔石は、魔法の補助具として役に立つが、取得するには魔物を倒さなければならないので供給は多くない。

ジュリアの父親は、王都の警備を担う第二騎士団の第3分隊の分隊長であった。第一騎士団は城内の警備と要人警護を受け持つ、第二騎士団は王都の警備と警護を受け持ち魔物とも戦うことがある。私の父親が第一騎士団の分隊を、ユージンの父親も第二騎士団の分隊をそれぞれ率いている。

もしかして・・・自分の父は、ユージンの父は、ジュリアの父の状態はなど、いくつもの最悪の考えが頭を一瞬で駆け巡る。それを振り切るように小さく頭を振り、ジュリアを見つめる。

「お・・・・お父様・・・・が・・っ」

とぎれとぎれに嗚咽の間から声が聞こえる。

そっと背中をなでながら、ジュリアを抱きしめる。

嗚咽が少なくなってきた頃、ずっとジュリアの肩を何も言わずに抱いていたユージンが立ち上がった。

「ユージン?」

私は、見上げながらどうしたのかと問いかけた。

「ジュリア、とにかく家に帰ろう?何があったのかはわからないが、家にはおば様もいる。帰りを待つ家令たちもいるだろうし学校よりは落ち着くだろう。」

いつもより少し気遣うような落ち着いた声で話しかけるユージンの言葉に、まだ涙を瞳に溢れんばかりに溜めながらもジュリアは小さくうなずいた。

手を引いて立たせ、支えて食堂を出口に向かって歩く。興味や気遣いの視線を受けながら、ジュリアを守るように手を引き馬車止まりまで付き添った。

「気を付けて。学校が終わり次第、なるべく早くお伺いするわ。」

「俺もすぐに行く。」

ジュリアが御者の手を借りながら馬車に乗り込む前に二人で声をかけた。

涙が止まり、真っ赤になった目で振り向いて小さく微笑むジュリアを見送った。

早く授業が全て終わればいい。大切な幼馴染の悲しみの時に一緒に居られない事が腹立たしい。きっとユージンも同じ気持ちだろうと思う。もしかしたら、それ以上かも知れない。

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