4人の少女と聖なる龍の物語

あんとんぱんこ

第1話 堕ちる

今日は、晴天だったはず。

なんでこんなに、真っ暗になったんだろう…

体中が痛い。目が痛い、のどが痛い、手が足が心臓が痛い。

周りを見渡せば、瓦礫しかない。

ここは王都だったはず。たくさんの人がいたはず。

ここにあるはずのたくさんの音が、色が、においが何もかも無くなっている。

どうしてこうなった?なにがあった?私はなんで、こうしている?

手のひらを見る。擦り傷でじんじんしている。

倒れた時に手をついたから。この大通りに敷かれた道の石で擦り切れたんだ。

血の滲んだ私の小さな手、お父様とお出かけしたときに繋いでもらった手。

重たいものを持つことも、傷を作ったことも無かったのに。

涙が溢れる。なんで泣いているのかなんてわからないまま、手のひらの擦り傷に流れて落ちる。痛い。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


「おはようございます。お父様、お母様、アレン。」

「ああ、おはよう。」

「おはよう、アナ。」

「おねえさま、おはよう。」


なんの変哲もないいつもの朝だった。

暖かなベッドで目覚め、顔を洗い、着替えて髪を梳かす。

食堂に降りて、家族と食事をする。


「行ってきます。」

いつも通り見送りに来てくれた、弟と侍女に挨拶をして学校へ向かう。

毎朝、登校のためにほんの数分の距離に馬車を使う。

歩いていきたいと言ったら、お母様に却下された。

曰く、「良家の子女が独り歩きをして誘拐にあったら、どうするの?すごく怖い目に合うのよ?痛い思いも、つらい思いもするのよ?あなたの今後にも影響するのですよ?」とのこと。

あまりの剣幕に、ちゃんと素直に馬車を使っている。


馬車止めに来ると、既に何台かの馬車が止まっていた。

いつも早く来るわけではないけれど、あまり遅いとここで渋滞に捕まる。

降り場までの少しの時間、今日の予定を思い出してみる。

歴史の授業の先生が、出産の休暇で臨時の人に変わるはず。

運動競技の授業は、昨日の雨で室内練習場に変更。

掲示板を見てから、教室に入ろうかしら。誰かが教えてくれるかな。


「お嬢様。」

ボケっとしていたところに声を掛けられて、びくついてしまった。

「ごめんなさい。考え事に夢中になってしまったわ。」

いつもの御者の差し出された手に、手を重ねてスカートをつまみ上げる。

ゆっくりと転げ落ちないように馬車を降りると、先に到着して降りていたらしい幼馴染が待っていた。

「ジュリア。おはようございます。」

声をかけると、ふんわりとゆるいウェーブの蜂蜜色の金髪が笑みをたたえて揺れた。

大きなアーモンド色の瞳でふんわりとおっとりとしゃべる姿は誰が見ても可愛らしく美しい少女だと思う。私が男の子なら、箱に入れてしまっておきたくなる気がする。

「アナ、おはようございます。今日は私の方が早かったわね。」

「そうね。でも、たまたまよ?今日の朝食が、オムレツだったんだもの。急いで食べるなんて勿体無かったの。」

「アナは本当にオムレツが好きよね。今日は何が入っていたの?」

我が家のオムレツには、いつも何かしら入っていることを知っている彼女の問いに、

ふふふと微笑んで私の一番好きなチーズ入りオムレツだったと答える。


のんびりと歩きながら二人で校舎へ向かうと、掲示板の前にもう一人の幼馴染がいた。

「ユージン、おはよう。何か注意事項はある?」

私が声をかけると、短く切りそろえられたツンツンの赤毛が振り向く。

「アナ、ジュリア、おはよう。歴史の先生と、室内競技場以外には何もないな。」

すらっとした長身の幼馴染が最近少し低くなってきた声で答えてくれる。

彼の家系はみんながすらっとした細身の赤毛だから、親戚が揃うと何とも言えない壮観さがあるとお父様が言っていたから、いつかこっそり見てみたいと思っている。

「それじゃ、教室に参りましょう?」

おっとりと声をかけるジュリアの隣についたユージンと三人で教室に入った。


教壇を挟んですり鉢状の教室の前から3列目の真ん中が私たちの指定席。

前2列は、基本的に誰も座ろうとはしない。

なぜなら、声の大きな担任の唾が飛んでくるから。

それでも、ゆったりと間隔をあけて座ることのできるだけの広さのある教室だった。


「おはようっ!!今日も元気に全員いるようだな!」

担任のゴルド先生が入ってきて、朝礼が始まる。内容は、変更や修正などの業務連絡的なものが主だった。

「今日も大きな声だったわね。毎日思うけど、ご自分で耳が痛くならないのかしら?」

体も大きくがっしりとしているけど、見た目通り声が大きくて中々お近づきにはなりたいと思えない。

「そうねぇ、運動競技の授業も面白くて世話焼きな一面もあるのに、そんな風に言われる可哀想な先生でもあるわねぇ」

ジュリアの何となくトンチンカンな返事に机に突っ伏す形で、へにゃっとなってしまう。

「自分の声で耳がやられるような人じゃないだろうけどな。今日は室内で何をやるんだかな。」

マトモな答えがユージンから聞こえて、運動競技の時間がお昼からなのを思い出して、お腹が痛くならない様に昼食を制限しなければならいことにまた突っ伏してしまった。

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