その姿は
からころからころ。目の前の小さないきものが回し車の中で駆ける。小さな車輪の中で目的地も無く、必死に背中を反らして走る姿は愛くるしい。しかし、こうして観察していても何のために走っているのか、彼の目的はさっぱり分からない。走って走って、たまに立ち止まっては慣性のままに車輪とともに回る。二週、三週、縦向きのメリーゴーラウンドを楽しんだら車輪が勢いを失って止まる。そしてまた走り出す。勢い余って車輪から弾き出されても彼は再び車輪に戻り走り続ける。小さなその姿は滑稽に見えた。
少し視点を引いてみる。彼はかごの中にいる。狭い狭いかごの中だ。かごの中には彼だけが居て、どの方向へ向かったとしてもたちまち格子に突き当たる。こうしてみると少しだけ車輪を駆ける気持ちがわかる。彼が走れるのは車輪の中だけなのだ。どこかへ駆けて行こうにも、彼には道さえない。だから、どこへ行けなくとも、窮屈そうに背中を反らしてでも車輪の中で走り続ける。小さなその姿は不憫に見えた。
さらに視点を引いてみる。彼は大きな部屋の中に置かれたかごの中に居る。かごの外はとても広くて、おまけに大きな体をした危険な生き物までいる。そいつは小さないきものをかごの中に閉じ込めて、ただ生きる姿を滑稽だとか不憫だとか考えている。それでも彼は走ることを止めない。自分よりはるかに大きな生き物が大きな足で地響きを鳴らそうが、大きな声で空気を揺らそうがひるむことなく走り続ける。小さなその姿は勇敢に見えた。
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