李も桃も
成人式も乗り越えて、子供と言うには熟れすぎた。そんな年になって私は初めて李を食べる。桃のような甘い香り。だけど桃よりは一回りか二回りか小さい実を見ていると、これは甘さがぎゅっと詰まっているに違いないと思える。
しかし、十分熟れて柔らかくなった実を
高校生の頃、好きな男子に告白された。初めての両想い。これから小説や漫画で語られるような甘い時間が待っているのだと思った。しかし現実はそうもいかない。
まず趣味が合わない。好きなアイドルの話をしようとしたら「誰? 芸人?」とか言われた日にはぶん殴ってやりたくなった。
時間も合わない。私は部活で忙しかった。彼は勉強熱心で学校が終わるなりすぐに塾へ向かった。それでも夜くらいはと電話すると彼は10時を過ぎたらすぐ寝てしまう。健全な高校生ならもうちょっと夜更かしするもんだ。
結局、恋人の関係はそう長く続かなかった。「イメージと違う」そう言って別れたんだったかな。
意識が現在に戻ってくる。あれからどうも恋愛に苦手意識があった。
改めて手に持った李をよく見てみる。まず皮に桃のような産毛は生えていないし、果肉の色だって違う。李の方が黄色味が強い。今は味だって知っている。決して桃のように甘くはないのだ。
頭の中でイメージを修正する。李のことをよく知りもしないで、似ているからと勝手に桃と同じイメージを押し付けたことを反省する。それができる程度には私も熟しているのだ。
そして再び李に齧りつく。二口目は確かに美味しかった。
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