楽な仕事
月の無い夜、闇に紛れて集う妖怪達。古戦場の跡地に作られた人気のない公園で、彼らはおどろおどろしい見た目に反してそれは楽しそうに酒盛りと怪談話に花を咲かせていた。
「オイ、屍人の兄ちゃン。次はお前さンの番だヨ」
「いやいや……、俺は……人間ですよ」
「はっはっは! こんな顔して人間だとよ。おもしれえ冗談だ!」
人の居ないはずの公園だが、どうやら一人だけ人間が紛れ込んでいるようだ。その男はあまりにも疲れた顔をしていたせいか妖怪達に仲間だと思われてしまったらしい。
「そら、冗談は置いといてお前さんの怪談を聞かせとくれよ」
「そうですね……。みなさんの怪談を聞いたところ、どれも古い。やれ皿が一枚足りないだの……やれ首が伸びる女だの……そんなもん今の時代じゃ……誰も怖がってはくれませんよ」
「おうおう、顔の割に言うじゃあねえか。じゃあ今の時代にあった怪談とやらを聞かせてくれや」
「ええ。これは……とある会社で起きた話なんですが……――」
屍人のような顔をした男はつっかえつっかえの独特な口調で語った。人を人とも思わぬ鬼のような人間の話である。つまり彼の上司の話なのだが。
「――というわけで……その男の夏のボーナスは突然無くなってしまったとさ」
「ひぇぇ! そいつは地獄の極卒みたいな奴だな!」
「アタシたちゃ、地獄に行くのが怖くて妖怪やってンだヨ」
男の怪談に妖怪たちは怖がりながらも大喜びのようだ。見事な怪談を披露した男にも酒を勧めて仲間として受け入れる。それからは飲めや歌えやの大騒ぎであった。
「いやぁ……楽しい。こんなに楽しいのは……いつぶりだろう。こんなに楽しい場所があるなんて……」
「おうよ。また、いつでも来ていいんだぜ?」
「歓迎するヨ!」
「ええ……ぜひとも……お仲間に入れてください」
妖怪たちに暖かく迎え入れられて、男はたいそう嬉しそうだった。
――そして後日、男は自殺したそうな。
「最近は仕事が楽でイイネ」「全くその通りだ。とり殺さなくても、人間を誘って酒盛りするだけでいいんだもんなぁ」
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