クビをつなぐ

「最近、試験的にやっていた人工知能によるサーバーの保守業務が上手くいっていてねぇ」「ええと……それは大変結構なことですね」

 突然、派遣先のお偉いさんに話しかけられた。話の内容からして、どうも嫌な予感がする。「だからね」「はい」「君との契約は来月までにしたいんだ」


 俺は突然のクビ宣告をくらって意気消沈していた。いや、ひと月以上前に伝えられるだけまだ良い方だが。

 夕陽を背中に受けてアスファルトを見つめながら帰路を辿たどる。もうすぐで愛しの6畳間に着こうというところで鳴き声が聞こえた。「にゃーん」道路に猫の首が落ちていた。「うわっ! コイツ生きてる!」


 近年になって、とうとう犬や猫といった、高度な知性を持つ動物を模倣した『アニマロイド』が開発された。彼らはまるで本物の犬や猫のように生活する。そうなるように作られたのだから当然ではあるが、しかし、精巧過ぎたのか本物の犬猫のように飼い主の都合で捨てられる個体まで出てきてしまった。業者に引き取られるならまだよいのだが、一部は野良アニマロイドとなって街で暮らしている。


 今、俺の目の前に居る猫もそんな野良アニマロイドだろう。カラスにでも襲われたのか、首だけになっているが。

 猫の首を拾い上げると目が合う。手に伝わるのは人工毛皮に包まれた生温かいシリコンの感触。ただし、首の断面だけは胴体との接続パーツになっていていやに機械的だった。


「ははっ。クビだけになってやんの」

 嘲りつつも、行き先を変更する。向かう先は電気街の路地裏にある怪しいジャンクパーツ屋だ。

「おっちゃん。猫のアニマロイドパーツって売ってる?」店の雰囲気に負けず劣らず、怪しい白ひげを蓄えた店主が答える。「んな酔狂なもん売ってねえよ。誰が買うってんだ。」「俺が買うんだよ」「変な兄ちゃんだなぁ……」

 そういいながらも、店主はガラクタの山を漁っている。「ほらよ。売りもんじゃねぇやつならあったぜ。持ってけ」「ありがとうおっちゃん! 恩に着るよ」「次はちゃんと買い物に来いよ~」


 早速家に帰ってパーツを組み立てる。ジャンク品の寄せ集めだから少しみすぼらしいが、どうにか首はつながった。コイツが感謝の念なんてものを持ち合わせているのかは分からないが、ごろごろとのどを鳴らしながら首を摺り寄せてきた。かわいい。元気が出てくる。

「よし! オマエはウチに再就職だ!」

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