だまし絵のライバル

   ☆

 俺はいつも総合成績で一位。しかし数学だけどうしても勝てない相手がいる。彼はとてもストイックで数学だけは満点を取ってくるのだ。そして、テストが返却される度に満点のテストを破り捨てる。きっと成長の余地がないから持っていても仕方ないということだ。遥か高みを目指す彼はきっと俺のことなど気にも留めていないだろう。だが、その姿勢に俺は一目置いているのだ。


 テスト返却。俺はテストは好きだが、この時間はあまり好きではない。点数が気になってどうにも落ち着かないからだ。そわそわしているとテストが返ってくる。九十七点だった。やはり満点にあと少し届かない。彼はどうだろうか。今日は珍しくテストを破り捨てない。俺は気になって話しかける。


「今日はテストを破らないのかい?」

「あ? いや……、証明問題でとちったみたいでね。満点じゃないテストを破ることはできない」

「へぇ、そういうものなのか。」

「そうとも。まだ見直す余地があるということだからな。でも、次はこうはいかないさ! はっはっは!」


 彼はなんでもないことのように言って高笑いして見せるが俺は素直に感心していた。満点じゃないテストにこそ成長の余地を見出す。流石、常に上を見ているのだな。


   ★

 俺はいつも数学だけは満点。しかし俺の唯一のプライドを脅かす相手がいる。奴は総合成績で常に一位だ。そのくせ数学でも俺を抜かそうという勢いだから目に障る。遥か高みに居る奴はきっと俺のことなど歯牙にもかけないだろう。それが悔しいから、テストの度にわざと目に付くところで満点のテストを破り捨ててやるのだ。要は当てつけというやつだ。


 テスト返却。俺はテストは嫌いだがこの時間は好きだった。今度もきっと満点……じゃなかった。よく見ると証明問題の誤字で点数を引かれている。クソ! あの意地悪教師め! いつも通りテストを破り捨ててやりたいが、満点じゃないと格好がつかない。理不尽な採点に憤慨していると奴が話しかけてきた。


「今日はテストを破らないのかい?」

「あ? いや……、証明問題でとちったみたいでね。満点じゃないテストを破ることはできない」

「へぇ、そういうものなのか。」

「そうとも。まだ見直す余地があるということだからな。でも、次はこうはいかないさ! はっはっは!」


 くぅ~。何が『テストを破らないのかい?』だ! あ~、情けなくなってきた。精いっぱいの強がりを言って、高笑いをして見せる。少しだけ滲んだ涙をこぼさないように、必死に上を見上げながら。

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