オカルト売りの少女

「オカルト~。オカルトは要りませんか~?」


 天下の往来で声をかける少女。道路も建物もコンクリートで作るこの時代に、古風な着物を着て、奇妙な文句を垂れる姿はどちらかといえば不審者であった。美しい容姿も相まってやたらと目立つ少女であったが、通りすがる人は不思議と彼女の存在に気付かない。

 そんな彼女に呼び止められたのは疲れた顔をした男だった。男は他の誰もがこの不思議な少女に意識を向けないことに違和感を感じつつ応じる。


「なんだいお嬢さん。」

「随分お疲れのようですね。なにかお困りですか?」

「ああ。一生懸命働いてるんだけど、毎日残業でクタクタだよ。おまけに碌に残業代も出ない。生活は荒れて毎日の疲れがとれないし、これじゃ悪循環だ。」

「それではこちらの妖精『プーカ』を差し上げましょう。きっとあなたの生活を助けてくれますよ?」


 プーカは家事の妖精だ。いかにも疲れている男の生活を手助けしてくれることだろう。男は少女の妙な迫力に押されて妖精を受け入れてしまった。


「いいですか、彼らは妖精であり、罪人でもあります。報酬は毎日クッキー1個。そういう契約でお願いしますね。」


 男の家にやってきたプーカは早速家事を始める。掃除、洗濯、炊事、なにをやらせても上手だった。男は一通りの家事を終えたプーカにクッキーを一枚渡す。プーカはたいそう喜んだ。


 プーカのいる生活にも慣れた頃、男の生活にも余裕が出てきた。彼はふと考える。あんなに一生懸命に働いてくれるプーカの報酬がクッキー1個とはいかがなものかと。会社に酷使されていた自分の姿とプーカが重なる。男は今日の報酬はちょっと豪華にしてやろうと考えた。

 男は早速ケーキを買って帰る。プーカはいつも通り完璧に家事をこなしていた。男はいつも通り、だけどいつもよりちょっと豪華な報酬を与える。プーカはいつも以上に喜んだ。


 しかし、翌朝、男が目を覚ますとプーカは消えていた。


 美しい着物の少女は妖精に話しかける。


「また、契約以上の報酬を受け取ってしまったのね。嗚呼。可愛そうなプーカ。一生懸命働いて、感謝されればされるほど罪を重ねてゆくなんて。

 報酬は契約に従って支払わなければならない。多くても少なくてもいけないのに。」


 

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