竜血樹

 その島には、『竜血樹りゅうけつじゅ』と呼ばれる一本の大樹がそびえ立っている。その樹液は血のように赤く『竜血』と呼ばれ、古くから錬金術や呪術の触媒として使われてきた。また、竜血を固めたものは大変美しく、加工も容易であることから宝飾品としても重宝される。島に生きる人々は、竜血と共に生き、そして栄えてきた。


 竜血によって栄えるこの島には古い伝承がある。


 その昔、この島には竜がんでいた。それは、とても人の敵わぬ生きる厄災。

 竜は人々が獣を狩ることも、森を拓くことも許さなかった。故に、島の人々は常に貧しい暮らしを強いられていたのだ。

 人々は島の外に助けを求めた。すると、賢者を名乗る男が訪れる。賢者は島に巣食う竜に巨大な杭を落として動けぬようにした。そして、竜に植物になる呪いをかけたのである。竜の身体は蔓に代わり、杭に巻き付くようにしてまっすく天に向かって伸びてゆく。こうして、竜は大樹となったのだ。

 島を去る賢者はこう言い残した。

「この竜はまだ生きている。だから、命の果てるその時まで血を流させ続けるのだ。」


 竜の脅威が無くなり島は開拓され、そのほとんどが人の領域になった。獣も、森の恵みも得られなくなってしまったが、人々は竜血のおかげで豊かな暮らしを得ている。

 そして、島の人々は賢者の教えを守り、竜血樹に血を流させ続ける。彼の者の命が尽き果てるまで。

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