形見の少女
「なんで人形が追ってくるんだよ!」
夜、街灯が照らす人気のない住宅街を徳仁は必死に駆ける。いったいあの人形に追いつかれたらどうなってしまうのだろう。恐怖に突き動かされて逃げる。しかし、普段は運動などめったにしない徳仁はとうとう足をもつれさせてアスファルトの上を転がる。振り返ると人形がこちらに飛びついてくる寸前だった。
その刹那、空から割り込んでくるもう一つの人影。フリルのついた露出の少ないゴシックドレスに身を包んだ少女が優雅な所作で着地する。
「落ち着いて、今は眠りなさい。」
そう言いながら。少女はやけに白い、綺麗な手をデッサン人形に当てた。デッサン人形は急に力を失ったようにその場に
少女が振り返る。ウェーブのかかった美しい銀髪がふわりと舞う。少女は徳仁に手を差し出す。
徳仁はその手を取り、さっきまで感じていた恐怖を忘れて少女に見惚れる。ガラスのように美しく光を反射する赤い瞳に吸い込まれそうになる。
「あなた、ずいぶん彼女を大事にしていたのね。さっきの子、あなたに恋をして、暴走しちゃったみたい。」
説明されるが、徳仁にはわけがわからない。
ふと、手の感触の違和感に気付く。少女のものとは思えない、無機質で硬い手だ。
「私も、同じなんだけどね。」
そこで、気付く。この少女も人形であることに。それはよく見知った人形。徳仁が大切にしている、幼馴染の形見のドール。
「はじめまして、ではおかしいかしら? だっていつもあなたの部屋で会ってるものね――。」
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