第3話 悪霊達の文通
封印寺の夜、幽霊は再集合した。
「やっぱり限界だ。あの和尚、殺す」
「だから、無理だって。落ち着きな、お菊」
お菊さんをお岩さんがなだめる。
「じゃあよ、三点セットを外している寝込みを襲えばいいじゃん」
「だから、観音の奴はどうすんだよ。以前和尚を殺ろうとして観音に半殺しにされたの忘れたか?」
お菊さんは周囲の火の玉を赤々と燃やした。
その時、溶けこっこが飛んできてお岩の真似をした。
「だから、観音の奴はどうすんだよ――てか。以前和尚を殺ろうとして観音に半殺しにされたの忘れたか? ――てかぁ。バッカみたい」
溶けこっこは飛び去った。
「クソ! いつもいつもあの観音像め!」
「それよりお菊、門将と文通してみろよ」
「文通?」
「恋文云々よりまず自分のことを知ってもらうんだよ。手紙を書いてさ」
お菊さんの周りの火の玉が黄色になった。
「それ、いいわね」
お菊は文を書いた。
「これでどう?」
お岩は文を読んだ。
『初めまして、私の名前は菊です。江戸時代に馬鹿な家の主人の皿を割ってしまったせいで、私は、私は……。それより私と文通して』
お岩は、目を瞑り考えた。
(何でお菊はいつもこんな文になるんだよ。最初は見事に怨念で話が脱線していたのに、いきなり本来の趣旨に戻すなよ。唐突すぎんだろ)
お岩は、お菊がこれ以上の進歩がないことを悟った。
「……良いと思うよ」
「そうよね! この唐突で
「お菊……、出してみろ……」
「じゃあ、今から出すよ。おい! 唐傘! 今からこの文を門将様に手渡しして来いや!」
唐傘は嫌そうな顔をした。
お菊はブチ切れた。
「唐傘よぅ、てめぇ燃やすぞ! 地獄の火炎で跡形もなく焼き払うぞ! 人間の都合で作られた使い用途の限られた器物がぁ!」
唐傘は涙を堪えて渋々手紙を携えてカランコロンした。
「返事が楽しみだね、お岩さん」
「お前、もうちっと唐傘に優しくできねぇのか」
数日後、唐傘は門将からの文を持ち帰った。
「おい! 遅いんだよ! 唐傘ぁ! カランコロンとか舐めてんのか!」
唐傘は一滴も雨が降らない中をがんばって行ったのに労いの言葉が無い事を咎めた。
「おのれ! つけあがりおって! 二度と再生しないようにバラバラにして馬車の車軸にしてやろうか!」
「お菊! 少しは感謝しなよ」
お菊さんはお岩さんに説得されて渋々お礼を言った。
「唐傘、ちわっす」
唐傘は怒りを堪えてその場を去った。
「さて、門将様はどんなお手紙を下さったのかしら」
お菊さんの周囲の火の玉が黄色に輝いた。
『背景、お菊さん。私、平門将は無骨者故にこのように手紙を書くことに慣れておりません。結論を言わせてもらうと、文通くらいならしてもよい』
お菊さんは天にも昇る気持ちで唐傘を蹴った。
「やったぜこら! 一枚、二枚、三枚じゃぁ!」
「おい! お菊! いい加減にしろ!」
和尚が寺から出てきて「また昼間っからでやがって! 悪霊退散! あの世へ行け!」と怒鳴って塩を撒いた。
幽霊達は消えていった。
次回、血塗られた文通
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