第2話 禍々しき恋文
封印寺の夜、昼間に和尚に塩をかけられて消えた幽霊達は、再び集合した。
「あのクソ野郎! 禿頭のクソ野郎! よくも塩をかけてくれたな!」
お菊さんは頭に血が上っている。
「落ち着けよ、お菊。塩を撒かれたらあたし達は少しの間、消えるんだ。和尚だって気持ち良くお経を読みたいだろうしよ」
お岩さんは冷静に応えた。
だが、お菊さんは冷静さを欠いている。
「お岩ぁ! こうなったらあの和尚を呪い殺してやろうぜ」
「無理だよ。あの野郎はお経と数珠と袈裟の三点セットの装備の上、職業坊主だぜ。おまけに寺ん中は観音の仏像まであんだ。お前、観音に勝てんのか?」
お岩さんは現実を冷静に分析した。
「勝てない……ファンタジーで言えば、職業坊主は勇者、三点セットは伝説の装備、観音は神の加護。悪霊には倒せねぇ」
「そゆこと」
悔しがるお菊さんにお岩さんは提案した。
「和尚のクソ野郎なんて忘れてよ、門将に恋文でも書いてみろよ!」
「恋文!」
お菊さんの周りの火の玉が桃色になった。
「恋文ってどう書くのかしら……。あたしを殺したあの野郎になら斬奸状を書いて呪い殺してやれるけどよ」
お菊さんの周りの火の玉が怒りの赤に染まった。
「そんなんじゃないよ。自分の気持ちを門将に伝えるんだよ」
お岩さんはお供え物が無いか探し始めた。
「何て書けばいいかしら」
「何でもいい、自分の心に素直になってみろ」
「分かったわ、で書くものは……」
お岩さんは香典の袋を出した。
「これに血文字で書けばいいじゃん、あんた得意だろ血文字」
「うん、得意。じゃあ早速書いてみる」
お菊さんは恋文を書き始めた。お岩さんは唐傘お化けにつまみのお供え物を持って来るように指示した。
数分後。
「できたわぁ」
「読んでみろ」
『拝啓、平門将様。私は封印寺の悪霊のお菊と申します。先日、事故物件の件で大変お世話になりました。もし、許してくださるなら、一度お会いしてお話していただきたいのですが』
「おい、これじゃあ知らずに事故物件を売り付けた不動産の謝罪文じゃねぇか。却下」
「どうして、せっかく書いたのに」
その時、溶けこっこが墓穴から出てきて香典袋を見た。
「なになに、ふん! くだらん!」
溶けこっこは菓子だけ取るとどっかへ行った。お岩さんはもう一度書くように指示した。
数時間後。
お岩さんは唐傘お化けで遊んで時間を潰していた。もう、空が明るくなっていた。
「できたわぁ」
「見せてみろ」
『平門将様へ。私の名前はお菊でーす。事故物件でイェスぶつかりゴッツンコ。私はあなたにヘイヘイヘイ。今度一緒にごっつぁんでござる』
お岩さんは呆れ顔でお菊さんを見た。お菊さんは誇らし気にしている。
溶けこっこがお菊の肩に飛んできて香典袋を見た。
「お菊……お前の肩居心地いいな。それだけ」
溶けこっこは気怠げに寺の屋根に登り「溶けこっこー!」と鳴いた。
「じゃあ、これを出すわね。唐傘お化け、ちょっと来いや」
「待て、お前それ本当に出すのか」
「そう、出す」
お岩さんはお菊さんを止めた。
「それはやめとけ。何にも伝わらねぇ」
「そんなこと言ったって……おい! 唐傘! てめぇ今笑ったろ!」
幽霊達が揉めていると、寺から和尚が出てきて「またか! 悪霊ども! 悪霊退散!」と怒鳴って塩をかけた。
幽霊は皆消えていった。
次回、悪霊達の文通
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