呪殺婦人のお見合い噺

化け猫ニャン吉

一枚 文通の章

第1話 呪われた出会い

「一枚、二枚、三枚……うふっ」

 恋する乙女、ではなく恋する悪霊のお菊さんは今日も素敵なあの方を思って皿を数えている。


 一月前、お菊さんは今日も人を呪うために現場へ急いでいた。

「やべーなくそぉ! このままじゃあ隣町の悪霊に事故物件の権利取られちまうぜ! 何で起こしてくれなかったんだ溶けこっこ」

 オウムのゾンビ溶けこっこは「自分、溶けてますから」と溶けた体でついてくる。


 曲がり角を曲がろうとした時、お菊さんは何者かにぶつかった。

「痛ぇーな! どこに目ぇつけてやがんだ!」

 その時、お菊さんは目を疑った。鎧姿の落武者が禍々しい霊気を放っていた。顔は血塗れで矢が数本頭に刺さり、口からは紫色の邪気を吐いていた。

(圧倒的な呪い……なんて素敵な殿方……まるで絶望が空に舞うようで)

「俺様の目がどうしたって? そっちが気を付けるんじゃな!」

 お菊さんは何も答えられなかった。


「さて、例の物件はこの先か」

 落武者はお菊さんの目的地だった事故物件へ向かって行った。途中落武者とすれ違った人間が呪いで倒れた。

(何て呪いの威力! 素敵!)


 落武者が事故物件に入ると、中から人が苦しそうに出てきた。その人は、地面を這うようにして玄関から飛び出した。そして、道路に出た所で車にひかれた。


「俺様の呪いに不可能は無い!」

 人魂が一斉に「たいらの門将かどまさ様! お見事!」と勝鬨を上げた。


 お菊さんは、門将に見惚れて自分の仕事を取られた事など、どうでもよくなってきた。


「祇園精舎の鐘の声何するものぞ!」

 門将は火の玉と共に事故物件を制圧完了した。


 それからというもの、お菊さんは毎日平門将のことを考えていた。


「で、事故物件を取られて、話もかけずにこの封印寺ふういんじに帰って来たってわけよね、お菊」

「そうなのよ、お岩さん」

 お菊さんは親友のお岩さんと墓をテーブルにしてお供え物を食べながら話をしている。


「だったらよ、お菊。その門将って野郎に会いに行けばいいじゃないか」

 お岩さんはお供え物を次から次へと食べている。

「そんな! はしたない」

 お菊さんは恥じらった。

「でもよ、その話何度目だ! いい加減行動しろよ。何がはしたないだ! この間も熊に憑依して自分の墓を倒した猿をボコボコに殴ったばっかじゃないか」

「そ・れ・は・別腹よ」

 お菊さんは再び皿を数え始めた。


「一枚、二枚、皿が割れただけに、私さらわれたいわ! きゃ」

 周りの幽霊が怖がっている。溶けこっこだけは恐れずに「気持ち悪」と繰り返す。


 この封印寺のボス幽霊は、お菊さんとお岩さんのツートップなのだ。別名、呪殺夫人じゅさつふじん


 一つ目小僧がお菊さんに恐る恐る言った。

「あの……昼間から出るとまた和尚が来ますよ」

「ああ! 和尚だぁ! んなもん怖くて呪いなんかかけれっかよ!」


 寺から和尚が出てきた。

「また昼間からでやがったな! 悪霊退散!」

 和尚は悪霊共に塩を撒いた。

 お菊さん達は消えていった。


 次回、禍々しき恋文

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る