09話.[素直に言うのね]
「高橋君、よね?」
「は、はい、あの彩音さんは……?」
「いま彩音のことはいいじゃない」
が、その先三分が経過してもなにかを言われることはなく。
彩音とあんまり似ていない彩音母はこちらをずっと見てきているだけ。
「彩音から聞いたのだけれど、お付き合いを始めたって本当なの?」
「はい、彩音から告白してくれた形になりますけど」
「なるほど、素直に言うのね」
嘘をついたところで後に困るのは自分だ。
だったら正直に言ってしまった方がいいし、隠すようなことでもなかった。
「彩音なら二階で寝ているわ」
「行って大丈夫なんですかね?」
「あなたは恋人なのでしょう? 気にしなくても大丈夫よ」
それならということで上がらせてもらった。
一応ノックをしてから彼女の部屋に入らせてもらう。
「ぐがー……ぐがー」
そうしたらなんかものすごい寝相で寝ている彼女がいた。
こんなのじゃまた風邪を引いて休まれてしまう。
自分がずっと本調子でなかったときの大変さを思い出したのもあった。
だからとりあえずは起こす前に布団をかけておく。
単純に会えなくなったら嫌だからな、元気でいてもらわなくちゃならない。
「んー……」
なんか起こさなくてもいい気がした。
ベッドの側面に背を預けて座っておく。
なんとなくやべー奴だけど彩音母も言ってくれたように俺は一応彼氏だ。
寝顔をじろじろ見ているというわけでもないし許してほしい。
「お腹減ったっ」
「母さんが作ってくれてたぞ」
「うひゃあ!?」
まあ驚いて当然だ。
起きたら家族以外の人間が部屋にいるんだからな。
それに起こすこともせずに座っているという怪しさ満点の野郎がだ。
「ちゃんとかけておかないとまた風邪を引くぞ」
「あー……はは、また恥ずかしいところを見られちゃったよ」
恥ずかしいところではないが気をつけてほしい。
そうでなくてもどんどんと寒くなっているわけだから。
「おはよう」
「おはよっ――はいいけど歯とか磨いてくるね、部屋で待っててね」
彩音の部屋に入っても別に緊張したりはしない。
そもそも男がいちいち不安定になっていたら話にならない。
俺は彩音の彼氏になったんだからこれまで以上にしっかりしておかなければならない。
あまり不安を抱かせないように、俺でよかったと言ってもらえるように。
「ただい――わっ」
「いきなり来て悪い、だけどひとりだと寂しかったんだ」
「ふふ、そうなんだ、それならいっぱい甘えてね」
できれば甘えてほしいところだがそう言ってくれているのであれば甘えておこう。
学校では人目があるしクラスが違うしで意外と一緒にいられないからな。
もう昔みたいにはしたくないからという気持ちは確かにある。
だけどいまはただただ彩音との時間を重ねていたかった。
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