07話.[出られなかった]
「ごめん、遅れちゃったっ」
「別にいいよ、焦っても仕方がないからな」
暗いのが苦手だと言ったら私の自宅前で集合ということにしてくれた。
ただ、一応身だしなみとかを整えていたら十分ぐらい遅れてしまったことになる。
もう変わりようがないのに、別に今日は見られるわけじゃないのにずっと出られなかった。
「もう終わりか」
「近いようで遠いことだったから意外だよね」
「はは、そうだな、終業式まではほとんど毎日のように言っていたよな」
「あはは、そうだね」
あと三十分もしない内に新しい年になる。
確かにそこにいるはずなのに新しくなるということがなんだか不思議だった。
神社にはそこそこの人がいた。
ちなみに京子と伊藤さん及び佐藤君とも集まる予定となっているから遅れてしまったことが問題にならないか不安だ……。
「あ、親友発見っ」
「京子っ」
「「はぐー」」
っと、京子とだけ茶番を繰り広げているわけにはいかない。
ちなみに京子の彼氏さんは熱を出してしまったとかで来られていなかった。
「京子、伊藤さん達は?」
「ふたりだけで世界を構築していたから放置してきた」
「え、危ないじゃん」
彼女はこういうところがある。
襲われないとか言って余裕ぶっているけど力でこられたらどうしようもないんだから。
なまじ部活でスポーツをやってしまっているからこその過信というところで。
「危ないじゃんって言うけど私はひとりで来ているからね?」
「もっと気をつけなさい」
「下手をすれば部活動終了後だってひとりで帰ることになるんだよ?」
「そ、それでも……」
「集合場所に行くのだとしても結局ひとりでしょ?」
……言いたいことは言えたからここら辺りでやめておこう。
「高橋と会うと必ず彩音もいる気がするよ」
「そりゃそうだ、彩音といるときでもないと京子と会えないからな」
「およ? 私と会いたいのかい?」
「ま、友達だからな、あ、もちろん異性としては興味はないぞ?」
「分かってるよ、興味を抱かれても恋人がいるから受け入れられないし」
とりあえず挨拶だけでもとふたりの世界を構築しているらしいふたりを探した。
そうしたら広くないのもあって見つけられたけど、……確かに邪魔できる感じはしなかったから京子と修君とただ待つことにする。
「彩音、甘酒」
「ありがとう」
「京子は苦手だって言っていたからないぞ」
「うん、苦手だからいーよ」
ゆっくりしている内に新年になって挨拶をした。
そこから当たり前のように京子の家で過ごすことになって少しだけわくわくしていた。
だって友達のお家に行けるだけでも楽しいから。
あとは夜遅くに大好きな友達といられることが嬉しいからだ。
「ふぁぁ~」
「眠いなら寝ればいいだろ?」
「私の家なんだよ? 私が寝たらつまらなくなるでしょ」
確かにそうだ、彼女が寝てしまうと少々困る。
だからどちらかと言えば私が寝てしまうか、彼が寝てしまうのが一番だった。
だけどそこまで上手くいかないのが現実というやつで。
「寝ちゃったな」
「うん……」
あんなことを言っていたくせに布団をかけてみたらあっという間だった。
これならまだ私の家か彼のお家にいた方がよかった気がする。
「でも、確かに少し眠いな」
「寝ていいよ?」
「どうせなら彩音も寝ようぜ」
「あ、そうだね、ひとりで起きていても仕方がないし」
ここには京子もいるんだから問題ない。
それより眠たいのは自分もそうだったから、転んだらすぐにでも夢の世界にへと旅立ちそうだったんだけど、
「布団はどうする? 勝手に出すのもな……」
と、もっともなことを言われて踏みとどまった。
そういえばそうだ、屋内だからってなにもかけずに寝たら風邪を引いてしまう。
新年早々そんなことにはなりたくないから……。
「風邪を引いちゃうよ?」
「じゃあ使わせてもらうか、もちろん彩音が使ってくれよな」
そんなのは申し訳ないからお互いに背を向けつつ寝ることにした。
電気を消してしまえばなんにも気にならなくなる――というのはなかったものの、それよりもいまはやっぱりこの眠さをなんとかすることの方が優先されることだからどうでもいいかな。
それに彼がなにもしてこないことは知っているし。
「彩音、こっちを向いてくれ」
「……うん?」
「悪い……」
「眠れないの? いーよ、私が抱きしめておいてあげる……」
まだ入ったばっかりで冷たかったからから丁度いい。
それにこの前の写真を自分の手で消去させられたのが少し気になっていたんだ。
だから今度こそ惨めな気持ちにならないよう意外と可愛い彼を愛でておくんだ。
「おやすみー……」
「お、おいおい」
「大丈夫ー、寝られるよー」
いいんだ、私はもう彼を見ているんだから。
嫌なら無理やり振りほどいてくれればいい。
それを拒絶だと判断して近づくのはやめるから。
だけどそうではないなら、私はこのまま触れていたいと思う。
安心するって京子が言っていたけど分かった気がした。
まあ、そもそも彼といるだけで安心感は得られるんだけどねと内で呟いた。
「ん……」
「起きたかよ」
「んー……? ……あれ、なんか大きな抱き枕がいる」
結局、朝まで寝ることができなかった。
彩音は器用にこちらを抱きしめたまま寝ている。
「彩音はいつもこうなのか? 仲良くなったら誰にでもするのか?」
「誰にでもするわけないじゃん、彩音を馬鹿にしないで」
「……なんか不安になるんだよ、慣れているみたいでさ」
「違うよ、君にならって心を開いて信用してくれているんだよ」
京子は寝ている彩音の頭を優しく撫で、そしてこちらの頭を叩いてから「顔を洗ってくる」と言って客間を出ていった。
……そうだよな、寧ろ誰にでもされていたら困る。
「んあ……」
「彩音」
「……あ、おはよう」
「おう、京子なら顔を洗いに行ったぞ」
「うん……」
起きたら自分のしたことに気づいて大慌て、なんてことにもならなかった。
流石に少ししたら抱きしめるのはやめたが、こちらを滅茶苦茶優しい顔で見てきている。
「ただいまー」
「おはよう」
「おはよう!」
俺が好きになった女子というのはどうしてこうも大胆なのか。
でも、嫌じゃない。
決めていることは今度は同じようにはしないということだ。
「歯ブラシはないからあれだけど顔ぐらい洗ってきなよ」
「うん、修君行こ?」
「おう」
顔を洗ってしっかりリセットしておかないと駄目になりそうだ。
あと、なにかを食べたというわけではないが歯を磨きたい。
そのためには小出家を出る必要があるか。
「京子、俺らはそろそろ帰るぞ」
「えー、まだいてくれてもよくない? 彩音優先で動きたいのは分かるけどさ」
「いや、正月だからな、色々あるだろうし帰るよ」
「そういえばそうだったっ。んー、まあしょうがないか、解放してあげるよ」
とりあえずは俺の家に来てもらう形になるかな。
先程から口数が少ないのは夜中のことが影響しているのかもしれない。
「彩音、家には新しい歯ブラシがあるから使ってくれ」
「え、一旦帰るから大丈夫だよ?」
「いや……離れたくないんだよ」
「あ……はは、分かった」
いま別れると確実に寝てしまう。
新年早々そんな始まりでは嫌なのと、あとは本当に彩音といたかったんだ。
というかあれはもうそういうつもりだと考えていいと思う。
気になってもいないのに抱きしめるなんてするような人間ではないからだ。
家に着いたらすぐに済ませてゆっくりする。
「……お正月からいちゃっていいのかな?」
「いいんだよ、俺の家は特になにかをするわけじゃないからな」
親戚は他県に住んでいるから会いに行くのは無理だ。
お節を食べるようなあれもない。
「あー……えっとさ」
「ん?」
なんか言いづらそうな感じだった。
なんでだと考えるまでもなく夜中のことだと分かった。
「夜中のやつさ、ちょっとこの前のが複雑だったからしたんだよね」
「この前?」
「ほら、写真を消さされたから、惨めな気持ちになったからこのやろうって思って」
いやでも間違ってはいないはずだ。
信用してくれるのは嬉しいがあれは流石にやりすぎだと思う。
「でも、こんなこと他の人にはしないからね?」
「……それは嬉しいけどああいうのはやめた方がいい」
女子の方が強いというのは本当なのかもしれない。
というか、どちらかと言えば女子の方が自由に動ける……か?
こういう場合に限ってはそうだ。
「わ、分かった、つまり私自身が来てくれればいいってことだよね?」
「は? ま、まあ、そうだな」
「だ、だよねっ、じゃあこれからはもっと一緒にいようねっ」
圧倒されそうだったからこの話は終わりにした。
ときどき怖く感じてくるぐらいだ。
……もし佐藤と仲良くしていて佐藤相手にも同じことをしていたと考えるだけで震える。
こう言ってはなんだが彼女みたいなタイプが一番相手をするのが難しい。
臆して積極的にいけないままでいると飽きて違うところにいってしまう。
それでもし信用した場合には――やめよう、いいことはなにもない。
「あ……」
「はは、腹が減ったのなら作ってくるぞ」
食べたら眠たくなるだろうが腹が減っているのはこちらも同じ。
「て、手伝うよ」
「おう、じゃあ作るか」
軽く作ってふたりで食べた。
気を使ってくれているのかただゆっくり寝たいからなのか両親は下りてこない。
「そろそろ彩音の家に行くか、母さんも彩音に会いたいだろうし」
「うん、一緒にいるにしてもその方がありがたいかな」
何気にまだできていない彩音の部屋に~とはならないかもしれないがそれはいい。
口にしたように一緒にいられるだけで十分だからだ。
もちろん、その先の関係にもなりたいが焦っても仕方がない。
一気に踏み込みすぎると引かれる可能性があるから少し怖かった。
「抱きしめながら寝ていたからなのかな、夢に修君が出てきたんだ」
「へえ、どんな感じだったんだ?」
「いつも通り優しかった、一緒に牧場に行ったりしていたんだ」
それはまたなんとも……平和な夢だな。
まあ夢の中の俺がやべー奴じゃなくてよかったと考えておこう。
「あと、修君が温かくて朝までぐっすり眠れたよ」
「そうか、それはよかった」
……こっちなんか色々な誘惑に負けそうになって寝られなかったというのに。
こういう点も女子はずるいなとしか思えなかった。
「もどかしいのよね」
ソファに座った瞬間に彼女はそう吐いてきた。
なにが、そう聞かなくても言いたいことは分かる。
つまり、仲良くできているけど、できているからこその問題が出てきたということだ。
最近の私は似たような体験をしているからだよねと言いたいぐらいだった。
「や、ゆっくり少しずつ前に進んでいるのは分かるし、大志がちゃんと考えて行動してくれていることも知っているのよ? でも、相手のことが好きな人間としては手を繋いだりとか抱きしめたりとかしたいわけじゃない? だけどね、大志は全くそういうことをしてくれないのよ」
「ほら、距離感を見誤ると問題になりかねないし――」
「いやでもあたしはがばっといったりしているのよ? それなのにしてこないって恋愛対象としては見られていないみたいじゃない」
こちらとしてはやはり積極的にきてほしい。
だけど慎重に行動しがちになるのは自分もそうだから分かってしまう。
だからもう待っているだけじゃだめなんだ。
片方にだけ勇気を出させるのは違うんだ。
そういうところも変わっていくということなんじゃないだろうか。
「でも、その割には一緒にいてくれるのよねえ……」
「うん、優しいだけじゃ片付けられないことだよね」
「そうそう、一昨日も昨日も今日も一緒にいたわけだからね」
彼女は横髪をいじりつつ「だからもう少しぐらい」と呟いた。
ちなみに今日は三日だけど修君とはいられていない。
でも、ずっと一緒にいられるわけじゃないことは分かっているからこれでよかった。
ただ徹底してほしいことがあって、離れるならちゃんと言ってから離れてほしい。
言ってくれないと分からないから、分からないままだとうざ絡みをしてしまうから。
そこだけを守ってくれればそれでよかった。
いまも十分心地がいいからいまのままでも構わなかった。
「彩音、あたしは大志のことが好きよ」
「私は修君のことが好きだよ」
「だから……まあ、頑張るわ」
「うん、私も頑張るよ」
そう、構わないけど彼氏彼女の関係になれたらもちろんいい。
……べたべた触れてしまっているからそうなれなかったら後悔するかも。
いや自業自得だろと言われてしまえばそれまでだけど適当にしているわけじゃないから。
問題があるとすれば結局体で――こういうやり方じゃだめなんだけどな。
「そういえば結局大晦日に会えなかったわよね」
「探しても見つからなかったんだ」
本当は探して見つけても雰囲気的に近づけなかっただけだけど。
だけどああいう雰囲気のときに来てほしくないのは私も同じだから邪魔はしたくない。
自分がされて嫌なことを他人にしない、そうやって考えて一応行動しているわけだからね。
「……あの後は大志の家に泊まらせてもらったのよね」
「私は京子のお家に泊まったよ、修君も一緒にだけど」
「当たり前だけど別々の部屋だったわ」
そう、それが普通だ。
特別な仲でもない限り同じ部屋では寝ない。
あのときは眠さと、京子がいることと、修君が側にいる安心感に負けてしまった形になる。
……もし私の家で修君とふたりきりだった場合はどうなっていたのかは分からない。
「わ、私もそうだよ……?」
「ん? なんか怪しいわね、もしかして一緒の部屋で寝たとか?」
「な、ないないないっ、私が寝られるわけがないでしょっ?」
「つか、あたしはあんまり彩音のことを知らないから」
二組だけだったから一緒に使ったなんて言えない、抱きしめていたなんて言えない。
それでもお互いに風邪を引かなくて済んだことだけはいいことだと思う。
あと、私は修君ともう決めているんだから私的にはあの行為はアウトではないし……。
「まあいいわ、あんたは奥手そうだもんね」
「お、奥手かなあ」
「それに他人は他人、自分は自分だから、自分が頑張れればそれでいいのよ」
確かにそうだ、頑張らなければならないのは自分で。
ライバルがいても変わらない、その相手に振り向いてもらえるかどうかだった。
それがいつの間にかライバルに勝つために行動しているときがあるから怖いと。
……私にはそういう経験がないけど、仮にいることが分かっていたらそうなりそうだ。
「って、悪いわね、本当なら高橋といたいわよね」
「大丈夫だよ、それに修君は忙しいみたいだから」
「そっか、付き合ってくれてありがと」
「うん、こっちこそ来てくれてありがとう」
もう少しで冬休みが終わってしまう。
別に嫌ではないけど休日の内にもう少しぐらい仲を深めておきたかった。
でも、修君に連絡しても反応がないからどうしようもないでいると。
「ねえ、修君から連絡とかきてる?」
「全くきてないわよ? 言いたいことがあったら直接言うし」
「そうだよね……」
私としてもできればその形の方がいいから分かる。
「反応ないの?」
「うん、昨日からね」
もしかしたら風邪を引いてしまっているのかもしれない。
酷くなるかどうかは分からないけど、彼も似たような感じなのかも。
そうしたら看病してあげたいけど行ったら逆効果になりそうだ。
「まあそういうときもあるでしょ、そこで無理して行ったりすると嫌われる可能性があるから気をつけた方がいいわよ」
「うん、連絡がくるまで待ってみるよ」
「そうしなさい、何事もほどほどがいいときだってあるんだから」
彼女というわけじゃないんだからこれぐらいでいいのか。
寧ろ最近は一緒にいすぎて麻痺していたのかもしれない。
謙虚に生きることができなくなっている気がした。
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