第48話 ナイショの話 その14

「……少し、疲れた。ここで休んでいこう」

「えっ?」

「文句があるか?」

「いや、、ない」


 直の鋭い眼光に負け、俺は断ることが出来ず直と一緒に公園へと足を踏み入れる。


 そこは、小さい頃。直と星奈さんと3人で良く遊んだあの懐かしの公園だった。


「ベンチがあるな、、座るぞ。薫」

「へいへい」


 まーた、眼光を向けられて機嫌を損ねられるのも困る。今はただ、直の言う通りにしておく。


「……何か飲むか? 俺、買ってくるよ」

「いや、、いい。花摘みに行くついでに私が買ってくる。お前はここで待っていろ」


 そう言って、直がスタスタと歩いて俺から離れていった。


「はぁー……」


 思わずため息がつく。せっかく直と二人きりで帰っていると言うギャルゲの好感度上昇イベントのはずが、、絶賛◯キ◯モの爆弾処理イベント以上の緊張感を伴っている。


 選択肢を間違えれば、問答無用にドカーン。


 これがゲームなら、セーブした場所からやり直し選択肢を選び直すこともできる。


 だが、、これはゲームではない。現実だ。


 いや、、ゲームのように何度もこの時代を繰り返してらのだから現実というのは少し間違っているのかも知れない。


 ドクドクと胸の鼓動が早くなっている。これは、恐れからかそれともーー。


「ほら」


 直からぶっきらぼうにスポーツドリンクが手渡される。


「ありがーー」

「200円だ」

「……へいへい」


 手間賃なのだろう。350mlのジュースにしては割高な金額を請求されるもの小銭入れから銀色のコインを2枚取り出して直に渡す。


 直は隣に座り、プシュという音と共に炭酸飲料をごくごくと喉を鳴らしながら美味そうに飲む。


「……薫」

「なんだ?」

 

 俺も、適度にスポーツドリンクを口にする。日は落ちたとしてもこの時期はまだまだ暑い。


 気づいてなかったが、相当喉が乾いていたらしい。気づけば半分ほど既に中身は無くなっていた。


「一口」

「はい?」

「一口、、そっちも飲ませろ」

「……あっ、、あぁ。良いぜ」


 特に考えず、直にスポーツドリンクを渡す。


 直はそれを受け取ると、そのままゴキュっと小気味良い喉鳴らしをして俺にそのまま返す。


 俺は、一定の動きしかしない機械人形のようにスポーツドリンクを口にしようとした。


「今飲めば、間接キスになるな」


 直の一言に、我を取り戻し。取り乱したためにそのまま缶を地面に落とす。


「なっ……!?」

「あーあ、、何をしてるんだ。お前は」


 落とした缶を拾い、そのままゴミ箱に捨てる。


「おっ、、お前が急に変なーー」

「んっ」


 直が、炭酸飲料の缶を俺に差し出す。


「……今度はなんだ?」

「飽きた」

「はっ?」

「好きにしていいぞ」


 そう言って、直は俺に無理やり炭酸飲料を握らせると背を向けて歩き出す。


 俺は、握らされた炭酸飲料をただ見つめその場に固まる。


「何をしている! 帰るぞ、薫」


 直の声に、立ち上がり。後を追いかける。


 右手に鞄、左手に炭酸飲料という組み合わせのまま帰路をひたすら歩く。


 直は、その後一言も口にせずに無言で歩いている。


 なんだ、、この空間はーー。




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