第46話 ナイショの話 その12

「……」


 雨、、かしら? 今日は外がなんだか少し騒がしい……。


『紅音……』


 ここには、私しかいないはず、、だとするならきっと……。


「兄さん? どうしたの?」

『いや、、その……』

「……悪いけど倉沢直と井上薫、、あの生徒会を潰すにはまだ時間がーー」

『それは良いんだ! そうじゃない……』

「じゃあ、何?」

『紅音、お前、、僕たちのせいで学校生活がーー』

「何度も言わせないで! 私には兄さんたちがいればそれでいいの!!!」

『紅音……』

「……ゴメン。シャワー浴びてくる……」


 怒らせてしまった、、勢いよく閉じた扉の方を見ながらもう一つの存在に声をかける。


『兄さん、聞いていたんだろ?』

『あぁ』

『このままじゃ紅音は……』

『わかってるいるさ。紅音のためにも時間をかけるわけにはいかない……』

『情けない。紅音を守るべき僕たちが逆に守られているなんて……』

『……井上薫……』

『えっ!?』

『俺たちと似た境遇のあいつならもしかしたら、紅音をーー』

『兄さん!!』

『……』

『……二度とその名を口にするな……不愉快だ』

『……やれやれ、、わかったよ』


 乱暴に衣服を脱ぎ去り、勢いのままにシャワーのハンドルを捻る。


 すぐに暖かいお湯が出てきて、頭からかぶる。


「……何もいらない。私には兄さんたちがいれば何も……」


 シャワーの激しい水音が、私の弱音をかき消してくれる。


「倉沢、、直」


 思い浮かべるだけでも腹立たしい。


 兄さんたちの思い出の学校で好き勝手やってるあの女が許せない。


 そして井上薫……。何故、彼は倉沢直にあそこまで従順なのか……。


 彼は、、私と同じはずなのに……。


 彼の中のもうひとりの人間……。


 それが誰なのかはわからない……。だけど、、私と同じ大事な人なのだと思う……。


「わかってるいるわよ。いつまでも甘えていちゃいけないって、、【死んだ人間】に頼っていちゃいけないんだってことくらい……」


 私の頬から一筋熱いものが流れる。


 今日こうして自らの弱さをさらけ出す。


 誰にも知られず、一人で……。


 それは、、明日も、そしてこれからずっと……。


 二人がいない日々を生きていくために……。



「苦しくないの?」


声に驚き、その方を向く。いつの間にか湯船に知らない女性が入っていた。


「あなた、、だれ!? と、いうよりどうやって!! 警察……警察をーー」

「無駄だよ。今、この空間には私とあなた、、長月紅音しかいない……」

「私を、、知ってる!? 本当にあなた誰なの?」

「私は、由梨……。いずれあなたとも出会うけど、、本当はもっと先に出会う人間よ」

「……私の知ってる人間は、いつの間にか湯船でくつろいでいるような超人能力は持っていないのだけど?」

「うん、、そうだね。影響がない部分まで言うなら、、私は確かに【ただの人】ではないよ」


 ただの人ではない……。こう聞けば、普通は信じはしないだろう。


 と、いうより、、自分のことながら私が異常なほど落ち着いていることに自分でも驚いていた。


 最初こそ、不審者だと思えた彼女に対して今私は当たり前に限りなく近い状態で会話をしている。


 兄さんたちで超常的な現象には、慣れてはいるが、、別の人の声が、、というより姿まで見えているのは私もはじめての経験だった。

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