第40話 ルミナス その9

「えーっとはいはーい! 草野愛花です。一年生です! よろしくお願いしまーす!!」


 唐突な愛花の自己紹介に俺、含めて全員の視線が愛花に集まる。


「えっ? あ、よろしくね愛花ちゃん」


 星奈さんがぎこちない返事を返すだけで、この生徒会の時間が止まってしまったように静まりかえる。


 どういうことだ? さっきまで、愛花はみんなの中に溶け込んでいたし、、俺の存在の代わりなのだとしたら、、自己紹介なんてーー。


「薫? あんた、どーしたの? いつものあんたならうひょー美少女だーとか気持ち悪いこと言いそうなのに?」

「気持ち悪いって、、清美お前俺のこと普段そんな風にーーって今、清美! お前俺の名前を呼んだよな?」

「えっ? えぇ」

「俺が誰なのかわかるのか?」

「なに? 今日はどういう絶対なの?」


 清美が一つため息をつく。


 どういうことだ? 清美の中の俺の記憶が戻っている?


 そもそも今、この状況がどういう状況なんだ?


 本来なら、愛花の記憶を頼りに俺がこの生徒会に戻ってくるはずだ……。


 だが、今の俺は本来ここにいるはずのないクロノスとと共にここにいる……。


 そして、聞こえたあの声、、あれは由梨のものだった、、このタイミング……まだ直が蒼海学園にいるこの時期に由梨が干渉してくる。


 こんなことははじめてだ。そもそも由梨は自分で【しかる時期】が来なければ動けないと、、そう言っていた。


 つまり、このタイミングもしかる時期、、


じゃあ、、なんで今まで変わらなかったしかる時期が変わった?


 正直、何度も繰り返しているはずの俺すらわからないイレギュラーが起こりはじめている……。


「我は愛花の双子の姉の……えーっと……」


 おいおい切り出したんなら、最後まで考えてから話しはじめてくれ。


 そんなことしていたら、、みんなに余計にーー。


「花愛(かれん)お姉ちゃんだよ!」

「えっ?」


 まさかの愛花からの助け舟に俺もクロノスも驚きを隠さなかった。


「えーっと、、じゃあ愛花ちゃんと花愛ちゃんは前はどこに住んでたんですか?」

「えーっと、、それはーー」

「スイスだよ!」


 またもや、愛花が俺たちへ助け船を出す。


「外国? じゃあ、なんで蒼海に?」

「お父さんの仕事の都合だよー。お父さん世界のいろんなところでお仕事してるんだ〜ねっ、お姉ちゃん!」

「えっ? えぇ、、そうよ」

「なるほど。大変なんですね愛花と花愛ちゃんは」

「本当、、あたしならそんな生活、きっと耐えられない……」

「……」

「直? どしたのあんたまで難しい顔して」

「いや、、なんでもない気にするな。清美」

「そう? なら、良いけど」


 直も何か違和感を感じているのだろう、、この流れは本来口籠った愛花に対して直が助け舟を出すことで成立する、、そういう流れだったはずだ。


 だが、今こうして直が沈黙しても愛花が自力で解決をしている。


 いつものようでいつもとは違う何かに俺は小さな恐怖を感じていた。


「まぁいいわ。二人ともこの生徒会の新しい仲間! それで良いのよね? 直」

「あっ、、あぁ、まぁいいか……」

「直?」

「では、役職だが、、愛花は会計、花愛には書記の補佐をそれぞれ頼む」

「わかったよ! 直ちゃん!」

「ちょっと待て! この生徒会では庶務である井上薫の補佐の方が必要なのではーー」

「必要ない」


 直がはっきりとクロノスに向けて言い放つ、その瞳からは僅かな苛立ちすら感じられた。

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