第32話 ルミナス その1

 他の部屋は空虚になっており、ほとんどなくなっていたが、、扉が唯一ある部屋へとやがてたどり着いた。


「やっぱり、、ここは残っているんだな……」


 保健室と書かれたプレートを見て、クロノスの方をチラリと見る。


「ここ、、で良いよな?」

「へっ、、変なことしないと約束できるのなら……」


 クロノスが両手で体を隠し、頬を赤らめる。


「バーカ、、そんな軽率なことはしねぇよ」

「軽率でなければ……するんですか?」

「……」

「……私、帰ります……」

「あぁ!! 待て待て!! 大丈夫だから! 絶対に!!」

「……信用できません……」

「それにーー」


 俺がガラリと扉を開けると、保健室のベッドにはメガネをかけた女性が座っていた。


「だっ、、誰ですか!?」

「……やっぱここにもいるんだね……鞠奈ちゃん……」

「ここにも、、ってことは……薫君どこかで私に会ったの?」

「あぁ、、やっぱり由梨と関係があるんだね……鞠奈ちゃん……」

「……そこまでわかってるのかぁ……ここまでたどり着くのにどのくらいかかった?」

「……年数で言うなら、、いや、、もう忘れちまったよ……」


俺の言葉を聞いて鞠奈ちゃんは小さく笑った。


「……知り合い、、なんですか?」

「そう、、だね。知り合いかな?」

「なーんか、、私はお邪魔みたいね〜席外しておこっか?」

「いや、、ここにいてくれ。後、、それが本来の姿なの? 鞠奈ちゃん。前会った時はもっと初々しい感じだったと思うけど?」

「んー? 前の私がどんな私だったのかわからないけど、、どれも私よ。だーって、私は私自身を偽ることがだーいきらいなんだもん」


 もんって、、良い大人が何を言っているのかと思ってしまうがおそらく本心だろう。


 鞠奈ちゃんのことは正直まだよくわかっていない、、直に対しての敵なのか味方なのか、、由梨に関係するのなら少なくとも敵、、ではないとは信じたいが……。


「とりあえず、クロノス、、座ってくれないか?」


 クロノスがきょとんとした顔で俺を見ていた。


「どうしたんだ? クロノス?」

「あの、、クロノスって……もしかして私のことを言っているんですか?」

「んっ? あぁ、、そうだがーー」

「ダメよ〜薫君、まだ彼女はクロノスになっていない頃の黒野爽子(くろのすわこ)ちゃんなんだから」

「黒野爽子? もしかして、、だからクロノスなのか?」

「ん〜それだけじゃないんだけどね〜」

「鞠奈ちゃん、、君はいったーー」

「い・ま・は私のことじゃなくて、爽子ちゃんの方のが大事でしょ?」


 なーんか、、星奈さんとは別の意味で掴みどころのない人だ、、鞠奈ちゃん……。


 どうも、上手いように誘導されているような気はするが、、仕方ない、、今はその誘いに乗るしかない……。


 この空間を支配している存在は、今やクロノスでも俺でもない、、この保健室という空間は鞠奈ちゃんのテリトリーだ、、機嫌を損ねてクロノスと二人ここに閉じ込められるなんて事態になってはどうにもならない……。


 力はある程度使えるとはいえ、、かおりがいない状態で無茶をするのは、、危険すぎる。

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