第28話 Marshmallow Justice その9

「いってらっしゃーい」


 静ちゃんが呑気に手を振って、俺を見送る。


 結局、、静ちゃんの正体についてはほとんどわかっていない。


 彼女と過ごせる時間は、、本当に僅かで……。


 この合宿と今年の学園祭を最後に、、この人と会うことはもうない。


 本当に、、何者なんだろうか……彼女は……。


 そんなことを考えながら俺は、海から少し離れたバス停のベンチに腰掛けた。


 時刻表を見れば、バスが来るまで後30分以上もあるのでなるべく日陰の多い場所へと移動する。


 俺がこのあそーー合宿に来た目的はみんなとは別にある。


 草野愛花、、そしてクロノスに関してだ。


 草加愛花については、いつものように調べれば調べるほどに俺たちの学校とは無関係であることがわかる。


 わかっているなら、、調べる必要はないだろう?


 たしかにな、、だがそれではトリガーを引くことができない、、


 そう、、この日、この場所に来るためにはその行程を踏む必要がある。


「この地にいるんだな? 薫」

「……やっぱ来ちまったか、、直」


 俺がゆっくりと声の方を向けば、可愛らしい白い水着に上着を羽織った直が立っていた。


「迎えに行くんだろ? 愛花を……」

「……似合ってるな、、可愛いぞ。直」

「ふっ、当たり前なことを言うな。まっ、、一応礼を言っておくか、、ありがとう薫」

「それで? 一応聞くけど、なんでここに?」

「愛花は私の友達でもある。お前一人で会いに行くのはズルいじゃないか」

「だよな」


 何故か笑えてきた俺たちは二人して笑い合った。


「みんなのことは、星奈に任せて来た。それに、、一応静ちゃんもいる、、問題ないだろ?」

「良いのか? 泳ぎたかったんじゃなかったのか?」

「ふっ、、泳ぐなら愛花を連れてきてからでも遅くはない。それに、、愛花は私の友達だからな。友達は一人でも多い方が良いし、海はみんなで遊んだ方が楽しいだろ?」

「そうだな」

「ここまで言わせて、帰れなんて言わないよな? 薫」

「あぁ、、一緒に行こう。直」

「勿論だ」


 直が嬉しそうな笑みを浮かべる。


かおり、、頼む


『任せな、、直は必ず守る。それだけは約束する』


         ありがとう


『でも、、どうする気だ? かおる。いつもと同じやり方じゃあ愛花しか救い出せねぇぞ』


        ……考えはある


『なら、、良い。しくじんなよ、、かおる」


わかってる 


 かおりとの会話が終わると同時にいつものバスが目の前に止まる。


 そう、、どうやら今回も無事にスタートを切ることはできたみたいだ。


「来たな」


 立ち上がり、バスの前まで行くと。バスはビィーという音と共にドアが開いた。


「行くぞ、、薫」

「あぁ」


 バスに乗り込むと、やはりそこに乗客も運転手もいなかった。


「!? かおーー」


 一瞬、直が不安そうな表情を浮かべたが俺の落ち着いた顔を見て安心したのかふぅと一つ息を吐いた。


「これも、、想定済みと言うわけか」

「あぁ、、隠す必要はないから先に言っておく。愛花は、この時代の人間じゃない」

「……お前の妄想話なら、今聞く気はないぞ」

「じゃあ、、勝手に話すから音楽でも聴いていてくれ……」

「……わかった」


 直は、上着のポケットから再生用小型音楽プレーヤーを取り出してイヤホンを両耳に入れる。


 まっ、、どうせ【ふり】なんだろうな。


 俺たち二人が座ると同時に、バスはまたビィーという音ともにドアが閉まり動き出した。

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