第17話 コネクト その6

「……」

「抱きついて来ないのか?」

「……」

「茶番は必要ない、、そう言うことか?」


 愛花は、何も言わずただ俯いていた。


「朝から見せつけてくれるな……お前たちは……」


 直が呆れた表情を浮かべながら、俺たちを見ている。


「本当に羨ましいくらい、、ねっ、直」

「そうか? 私は、こんな暑い日にわざわざべたべたとくっついていたいと思うお前たちの気持ちがわからないが……」


 本来は噛み合うはずの、、規定通りの再生される風景……。


 違うのは、愛花の表情だ。


 本来なら、そんな言葉が出るはずない光景、、


 だが、、現に直と星奈さんは次々に言葉を発する……。


「……」

「ほらっ」


 せめてもの情けとばかりに、愛花の右手を取り握る。


 愛花は表情ひとつ変えずに、俯いている。


「はいはい、、リア充乙」

「ふふふ、僻まないの。まぁ、、もうすぐ夏休みだし色んな場所に行けるわよね」

「それでは、、邪魔者は消えるとするか。行くぞ、星奈」

「そうね」


 直と星奈さんが俺たちに背を向けて歩き出そうとする。


「井上薫?」


 手を握っていないのに、握られたように振り向く直は少し滑稽だ……。


 だが、、俺はこれだけは言わなければならない……。


「直、、好きだ。星奈さんも大好きだ」


「……」


「けっ、、朝から見せつけてくれんじゃねぇか、お二人さんよー」

「よしなさい、直。二人に失礼でしょ」

「この、クソ暑いなかべたべたくっついてるのを見てるとなぁ、、こっちまで暑くなるんだよ」


「……」


「あっ、、ごめんなさい」


「懐かしいな……」


「あっ、あの……」

「あなた、なに?いきなりこんなことして何のつもり?」


「……あたしの負けだよ……」


 辺りにいた無数の直と星奈さんが霧散し、、記憶の奥にある駄菓子屋の前に俺たちは立っていた。


「愛花……」

「元気でね……かおる」


 愛花はそう言うと俺に笑みを向けて、背を向ける。


 俺は、そんな愛花の腕を強く掴む。


「……」

「必ず、、必ず会いに行く!! 本当のお前に!! そして、、今のお前も消させはしない……必ず」


 愛花の頬から一筋涙が溢れる。


 だが、すぐに小さく笑った。


「待ってる、、から、、ね……」


「……必ず会いに行ってやるからな……」


 そうつぶやいて、俺は駄菓子屋に入る。


 風鈴の音がチリンチリンと心地よい音が鳴る。


 ……小さなチョークを手に取り、、備え付けの黒板に大きく心を込めて描く、、


       二人の、、愛花を……。


「もう、、二度とあんな想いをしたくも、させたくもない、、だから……」


 チョークで最後の文字を書き込む。


「待ってろよ、、愛花、、クロノス……約束、、今度は忘れない……」


 目の前の光に手を伸ばすと、そのまま俺は意識を失った。

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