第9話 ナイショの話 その9

「なーに、馬鹿みたいな顔してんだ? お前」

「かおり……か?」


 おそらく、俺以外に聞こえていないであろうが、、気にせずに声のした方向に話しかける。


 幸い、、これだけ日が暮れているんだ、、近くに人影はない。


 変な人だと奇異の目を向けられることもないだろう。


「ほー、、なかなか鋭いな。お前、何週目のかおるだ?」

「その、恋愛ゲームみたいな言い方はやめろ。俺はそんな、超人的能力なんか持ってないぞ……」

「あー、、やっぱりまだ気づいてねぇようだな……いや、、気づいていない振りをしてるだけか?」

「……どうかな?」

「へー、、俺にシラを切るなんて、、何周とかの比じゃねぇな、、何十、、いや、下手すりゃ何百周とかの領域か?」

「……化け物かよ、、俺は……」


 かおりが、俺をじっと見つめているような気がした。


 あくまでそう感じただけだ。


 だって、俺自身も薫の姿は見えていない。


 ただ声だけははっきりと聞こえる。


 それもまるですぐ近くにいるようにーー。


「かおる、、お前、愛花にはもう会ったのか?」

「あぁ……」

「じゃあ、、紅音にもか?」

「いや、、紅音にはまだ会っていない……」

「そうか、、まだ早かったか……」

「ネタバレが過ぎるんじゃないか?」

「構いはしないさ、、俺がいつもより長い時間お前と会話をしている時点で、、以前とは違うんだからな」


 由梨のコンタクトの速さも、いつもとは異なっている、、直のあの時の言動は未だにわからないままだし、、


 でも、、あの言葉は何度聞いても俺の胸に深く突き刺さる……。


 守りきれなかった俺を、、いつまでも責め立てる呪いの言葉……。


「かおる……」

「えっ?」


 刹那、ふんわりと甘い香りがしたかと思った途端。


 俺は、何か柔らかいものが全身を包んだように感じた。


「かおる、、俺とお前は一心同体だ。どちらがかけても、井上薫という人間は不完全な人形になっちまう……」

「……わかってるよ。んなことはーー」

「いや、、わかってねぇーーいや……」

「かおり?」

「今のお前には、、俺は本当に必要ねぇのかも知れねぇな……」

「……俺は、、かおりがいてくれた方が嬉しい、、必要ないなんてこと、、絶対にない……」

「かおる……?」

「かおり、、お前、、本当は全部知ってるんだよな? これから起こることを……」

「……かおる、、今までのやり方じゃ、、今回は難しいかも知れないぞ……」

「かおり……? それはどういうーー」

「いや、わりぃ。少し、、でしゃばり過ぎた……本当に、、ゴメン……」

「かおっーー」


 そういうとかおりの声は、俺にも聞こえなくなった。


 最後にかおりが言った言葉ーー。


 今までのやり方では難しい……。


 やはり、少なからず【終わりを繰り返す】ことでの影響が現れ始めているのか……。

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