第8話 ナイショの話 その8

「……」

「……」


一緒にいるのに、ただ歩いているだけ……会話も何もない……。


        正直気まずい。



「なぁ、、薫……」

「んっ? なんだ」


 ようやく直が、口を開いた。だが、いつもみたいなおちゃらけ感はなく空気は相変わらず重い。


「お前は、、この世界は、一つだと思うか?」

「はぁ? なんだそりゃ? 哲学か何かか?」

「良いから答えろ」

「んー」


 俺の答えを待ち望んでいるのか、直は立ち止まって俺の顔をじっと見つめていた。


「よくわからないが、、一つなんじゃないのか?」


 俺は、世界は一つではないことを知っている。


 夏休みに入る前、、俺は【いくつもの異なった現実】に遭遇している。


 晴美ちゃん、清美、星奈さん、そして直……。


 俺は確かに、この四人と何度も同じ時間を繰り返し、、過ごしてきた。


 ただ、あの現象をまとめたものを俺の作品として披露しても反応が薄いということは、、やはりーー。


    由梨か、かおりが何か関係している。


 どうやら、、この時間軸でもあの事実をまだ変える手立ては見つかっていないようだ……。


 と、、いうことは……直は……。


「……本当に、、そう思っているのか?」


 冷や汗が流れた。直は変わらず真面目な表情で、俺を見つめていた。


    直は、、何か知っているのか…?


「ずいぶん疑り深いな、どうしたんだ?」

「薫、、いや、すまない、、忘れてくれ」

「あっ、、あぁ……」


 直はその言葉を最後に、また口を閉ざした。


 やがて、別れ道の交差点へと辿り着く。


 結局、、それ以降二人とも会話もなくただ歩いていただけだった。


 久々に一緒に帰ったんだから、、もう少し楽しく会話しながら帰りたかったなぁ……


「じゃあな、気をつけて帰れよ」


 直は何も言わずに、下を向いて何かを考えているようだった。


 俺はハァと小さく溜息をつき、家へと向かって歩き出そうと足を踏み出した瞬間。


       直が俺の腕を掴んだ。


「な、、なんだよ?」

「薫……お前は、何があっても私が好きか?」

「なななな!!!!」


 いったいいきなり、何を言い出すんだ!!


「どうなんだ……? 薫」

「あ、、当たり前のこと聞くな!!」


 あれ……? 俺、、何を言ってーー


「例え、世界中の人間がお前の敵になったって! 俺は、お前を、、直を大好きでいる!!」


      うわぁあぁぁぁぁ!!!!


    何をこっぱずかしい台詞をーー!!!


      ……見てみろ……井上薫。


 冗談で言ったつもりの台詞に真面目に答えたせいで、直が若干引いてーー。


「なっ、、お?」

「……」


 直は俺の胸に抱きつき、小さく震えていた。


 それは、普段や生徒会のみんなにすら見せたことのない直の姿だった。


 俺は、正直どうして良いか分からず、ただその場に固まっていた。


 いつも妄想でのシミュレーションは完璧だと思っていたが、、


 いざ、こんな状況になった俺は冗談の一つも言えなかった。


「すまない、、急に……」

「……いや、、うんっ……」


 おかしい……今日の直はやはりいつもと違う、、もしかすると、何か不具合が生じ始めているのか?


 もしかすると、俺や直に残された時間というのは少ないのかも知れない……。


「直、、お前……何か知ってーー」

「本当に、、本当になんでもないんだ……でも、、今は……」


      気のせい、だろうか……


   直の瞳から一筋、涙が零れた気がした。


「じゃあな、、薫」


 直はそう言って、俺からゆっくり離れると小走りで走っていった。


「あっ、、おいっ!! 直!!」


 取り残された俺は動けずに、直の背中を見送ることしか出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る