第9話 訳

妹は銀色の長髪を風になびかせながら黄昏ており、クラウドがいることにまったく気付いておらず、時折ため息をついていた。その姿を見たクラウドはどこか懐かしさを感じると共に共に無事に成長していたことに対して安心し、親心のような物を感じていた。しかしそれを置いて半端な戦争をしかけ、よりによって魔王、などと呪われた存在と自ら名乗っている、それに対する怒りが込み上げてきた。クラウドは腕組みをしながら「…おい、レイン」と妹へ向けて声をかけるレインは「誰?呼び捨てにしていいなんて言った覚えはないわよ?」と言いながら振り返る。そしてクラウドを見て「…なんで今更来たの?私は貴方に対してして欲しいことなんて全くないし用もないのだけれど?」と言った。


その一言はクラウドの怒りをさらに煽る。しかしクラウドは静かに「てめぇに用はなくても俺からはある、一体なんのつもりだ?」とレインに問いかけるそれに対しレインは「何のつもり?戦争を仕掛けたこと?あなたにはなんの関係もないでしょ?」と首を傾げながら答えた。それに対し「それもだが何故魔王などと自ら名乗る?そんな絵空事に憧れる歳じゃねぇだろ?」とさらに問いかけるレインは溜息をつきながら「それも貴方には関係ない、目障りだから消えてくれた方がありがたいのだけれど?」と言い放つ。


とうとうクラウドも怒りを隠しているのにも限界が来「関係ない?目障りだから消えろ?なぜ来たか教えてやろうか?妹分の不始末に対してケジメをつけさせに来たんだ」と言い、小太刀を抜く。その姿を見てもレインは態度を全く変えず「 …無駄よ、魔王は勇者にしか殺されない、貴方も知ってるでしょ?」と冷たく言う。


クラウドはレインを真っ直ぐを見ながら「無駄かどうかはやって見ねぇと分かんねぇだろ?それに…この世の真理は強いやつを中心に回っている」そう言いながらクラウドは大股で歩き、レインに近寄る。レインもクラウドが何をしようとしているのか分かっているだろうが逃げる様子も抵抗する様子もない。クラウドはそのままレインの腹部を小太刀で刺すと同時に馬鹿野郎が、と言うとレインは馬鹿はどっち?と言いながら口から血を吐き、クラウドへ倒れ込んだ。


クラウドは小太刀を抜かずにレインを肩に担ぎ、テラスから飛び降りると木から木へと飛び移りながら国境方面へと駆ける。そして要塞と国境ほぼ真ん中の泉まで来るとクラウドはレインを下ろし、地面へ座り込み、タバコに火をつけ「…生きてっし聞こえてんだろ?」と言うとレインは起き上がり「 …ええ、生きてるし聞こえてるわ」と答える。さらに「これでも私が魔王ではない、そう思ってる?」と首を傾げながらクラウドの目の前に座る。その問いに対しクラウドは「認めたくねぇが今見ちまってるからな」と答え、絹の布を出すトレインへ向けて投げ「血くらい拭け」と言うとレインは 「あなたが刺したからでしょ?」と言いながら大人しく血を拭いている。


クラウドは腕組みをし「お前が魔王か否か、は置いておく」と言うとレインはキョトンとした顔になる。その顔を見ながらクラウドは「問題は何故お前は戦をしかけながら攻めない?」と言う問いに対してレインは「…私はあの国が欲しくて戦争をしかけた訳じゃない、だけど訳も話したくない」と答えた。その解答にクラウドは苛立つが「だったら傍から見てお前のその行動はあの国の誰かに殺して欲しい、そうにしか見えん」という言葉に対してレインは何も言わなかった。その反応を見たクラウドは舌打ちをすると「…図星ってか?」と言い、火のついた煙草を握り潰した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る