第8話 再会

クラウドは国を出てから馬を走らせ続け、クリシュナ国へ急いだ。食料を数日分しか持っていないこともそうだったがかつての自分の妹が近くに居る。その情報と共に古傷が疼いて仕方が無かったからだ。しかもその妹がよりによって魔王と言うありとあらゆる人間たちから忌み嫌われ、殺されるべきだと言われ続ける様な存在になってしまっているのかどうか、を確認する為だ。クリシュナ国へ半分ほど来たところで馬が一頭倒れ、走らせることが出来なくなると小太刀で解体し、食料にし、もう一頭の馬が倒れるまでに少しでもクリシュナ国へ近寄れるようにさらに速度を上げさせ走らせ続けた。


クリシュナ国とその隣国との境界線がもう目の前だと言う所で残されていた馬も倒れた。クラウドはため息を着くと再び小太刀で 解体し、薪になる木を集めると火をつけ馬肉を焼き、食した。荷物を減らす目的もあり、馬肉全てを食したクラウドはタバコを1本吸うと立ち上がり、自らの脚で走り始めた。宛がないような道のりであるが戦争を仕掛け、現状としては小競り合いが続いているのなら境界線内の隣国側に要塞のような物を作るか深い森の中に要塞を作るか、のどちらかだった。クラウドが走っているのはどちらの条件も満たしており、この深い森はクリショナ国の王都の近くまでほぼ開拓されていない為攻め入る際の要塞建築にはここ以外は考えられなかった為クラウドは森の中を走り続ける。


国境と王都、ほぼ半分程まで走ると木が切られているのが目立ち始める。そうなると要塞まで今まで程の距離はなく、目の前にあると判断しても間違いないとクラウドは判断し、さらに走る足を早めた。途中獣のようなモンスターを複数体確認したが食事を取ったあとという事もあり、仕留めていくにもただ無駄に足止めをされているものと変わらない、そう判断し身を隠し、進み続ける。すると突然森が開け、大型の要塞が目に入った。恐らくこれが魔王軍が根城にしている要塞だろう、下手に見つかれば中に入るのが難しくなるためクラウドは入口らしき場所が見える森の木に身を隠し、様子を伺う。


数時間程息を殺し様子を伺ったが見張りどころか出てくる者、入っていく者は居らず、ただただ時間のみが過ぎていった。魔術、もしくは魔王軍の中に千里眼のような能力を有している者が居ることは否定出来なかったがこのまま身を隠し続けても埒があかず、無駄に時間のみを使ってしまう、そう判断し、クラウドは要塞の中へ入っていった。要塞自体はかなり広い造りであり、小競り合いばかりをしている様な若干名程度の軍と思っていたがそうではなく、かなりの大人数が魔王軍に居ることを容易に想像出来るだけの広さがあった。


中に入ったクラウドをさらに驚かせたのは全く誰とも会わない、という事だった要塞の外観、そして入口の広さ等から考えて数千から数万人程の規模であると思うのだが中に入っても誰とも会わない、普通なら考えられないことだ。頭の首を取られたら負け戦になる、頭を取られなくとも備蓄している食料を奪われる、毒を混ぜられても負ける。それだと言うのに見張りも見回りも居ない。忍び込んでいるクラウドから見ると無駄に体力を使わなくても良いと言うだけでありがたいが怒りが込み上げてきていた。戦争を仕掛けているのにも関わらず攻めず、かと言って自陣の防衛もまともにしていない。子供の頃と変わらない甘さを引きずり、自分についてきている者たちへ無駄に力を使わせている。それは傭兵をしているクラウドからはとても許せない事だった。クラウドは青筋を立てながらレインがいるであろう最上階を目指す。その間も全く誰とも会わず進める。そして最上階につき、突き当たりのドアを開けるとそこはテラスになっておりクラウドが覚えている子供の頃と変わらない部分と成長した部分を持つ妹が黄昏ながら外を眺めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る