第2話 怒れる戦士

ドゴン、と言う音と共に数m先に居たはずの大男がたった1歩で自分たちのすぐ目の前、このクラウドという男の拳が当たる距離まで詰められた事に対し騎士団員は恐怖し、闇雲に魔法を放つ者、剣を振り回す者が多く居り、同士討ちにより数名が力尽きた。騎士団の最後尾に居る騎士団長は団員達を落ち着かせようとするが完全に恐慌状態であり、団長の声が届いていない。そんな中パキャ、という音がしたと思うと団長の胸元へバスケットボールほどの大きさの何かがぶつかってきた。松明のゆらめきによりあまり見えないが目をこらすととある団員の頭部だった、飛んできた正面を見るとクラウドは正拳突きを当てたあとの姿勢のまま、止まっており、団長から見られているのに気がつくと悪魔のような笑みを浮かべながら来いよ、と指で挑発をする。飛ばされて来た頭部を見ると鼻が完全に陥没しており、目玉が飛び出している。


部下であり、子供の頃から知っている団員のあまりにも無惨な死をまあに自分の手の中で感じた団長は嗚咽感に耐えられず、その場で嘔吐する。その姿を近くで見ていた団員達も恐慌状態になる。すると一人の団員が「死にたくない!!僕は何もしていない!!」と言いながら逃げようと走り出す。団長は嘔吐しながらも仕方が無いことだろう、自分もできることなら逃げ出したい、と思っていると何かが風を斬る音がしたと思うと逃げ出そうとした者の首が落ちる。そしてカァンという鉄製の物で石を叩いたような音が響き渡る。


音をした方を見ると殴られ、首と胴体が別れてしまった団員の剣が壁に突き刺さっている。どう考えてもこの剣を投げた人間は目の前で次々と団員たちを殺している悪魔だ、50名ほど居た騎士団も半数以上が殺され、遺体が床に転がっている。それなのにこの悪魔には誰もダメージを与えられていない。その真実に団長は絶望し、腰を抜かした、そして生き残りたい、例え他に生き残った団員が居て非難されても構わない、死ぬことに比べたらマシだ、と考え地面を這いずり、柱の影に隠れ、頭を抱えて震え出す。


柱の陰に隠れてからも団員達の殴られる音や断末魔等がひっきりなしに聞こえる、その音がさらに恐怖をかきたてる。とうとう耐えきれず、耳を塞ごうとした時、友人であり、近衛騎士団副団長の声が聞こえる。恐らく悪魔に対峙しているのであろう、彼も怖がっているはずだが声を震わせる事無くあの悪魔と会話している。あの悪魔の死が怖くないのか?という言葉に対し「死が怖くない、そんなことが言える人間が居るか?」と返答し、続けて「命乞いしても助かる気がしない、なら俺は自分の上司であり、友人であるアイツが姿を見せないのは国王陛下へ状況を伝えに行き、そして国王陛下を逃がしてくれる、それを信じてたとえ1秒でも長く貴様を足止めしてみせる」と言い放った。それに対し悪魔は口笛を吹くと「気に入った、てめぇは騎士団員として、人間として殺してやる。来いよ」と言った。


友人の言葉を聴き、団長は涙が止まらなくなり、友人の断末魔を聞かずにいる為に耳を塞ぐ。どれだけ時間が経っただろうか、団長は恐る恐る耳を塞いでいた手を下ろし、視界を遮るために固く閉ざした瞼をあげる。すると天井から何か液体が滴る音以外の音はせず、周囲からは血の匂いのみが押し寄せる。友人は殺されたのだろうか?それを確認するために少しずつ柱の影から身を乗り出して確認するため。自らが率いていた騎士団員のある者は天井に突き刺さり、絶命しており、また、ある者は手足がへしゃげおり、苦悶の表情のまま息絶えている。やはり騎士団は壊滅したのだろうと考え、せめて友人であった彼の遺体だけでも手厚く埋葬しようと中を見て回る、すると中央に他の遺体とは違う。全く欠損していない遺体を発見し、近寄る。彼だった。どうやら刃物で首を一閃され、事切れたようだ。何故か彼だけは胸で手を組まされており、他の団員達は全く違う、騎士らしい亡骸であった。

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