第8話 ツギノニエ

 授業が終わり職員室で中堂 健はイライラを募らせていた。


(クソッ!何で俺が怒られないといけないんだ。)


 最近、学校で起こった殺人事件や傷害事件に自分の受け持っているクラスメートが被害に遭い続けている事を教頭に言われ、

 俺の指導不足でこうなったのではないかと

 疑いがかかっていた。


(冗談じゃない!

 生徒が怪我した事は俺の責任じゃないだろうがっ!)


 天代は伊藤が下手を打っただけで、

 伊藤はその事がバレて親から復讐をされた。


 俺には何の落ち度も無い筈なのに......


 最近だってそうだ。

 サッカー部の副キャプテンだった中田が

 事故で足を失った。


 話を聞いたが、この学校は普通じゃないとか呪われているとか意味分からない事ばかり言っていた。


 この一件でもPTAからせっつかれたらしく何とかしろと教頭が言ってきやがった。


(知る分けねーだろ!

 事故なんか防げるかってんだ!)


 あー、ダメだどうもイライラが収まらねぇ....

 また"あの子"にでも頼るか。


 そう考えると中堂は誰かを探すために職員室を後にした。


 その姿をイクアは見つめながら呟いた。



「次の獲物はアレだな。」




 この学校は給食の時間は併設された食堂で、

 昼御飯を食べることが出来る。


 その分、教室内での飲食は禁止になっておりご飯を持ち込んでも食堂で食べなければいけなかった。


 鈴原 正木は皆が食べ終わりだした時間を

 狙い食堂に入る。


 少しでも絡まれる被害を無くすためだ。

 僕は母が作ってくれた弁当を取り出すと、

 中身を開けて直ぐに口に放り込んだ。


 味なんか気にして、

 ゆっくり食べてる余裕も無い。

 少しでも早く食べ終わり苛めてくる奴等から見えないところに行く。

 それが、僕にとっての学校内での"食事"と言う行為だった。


 しかし、今日は運が悪かった。

 食べていた弁当箱をひっくり返される。

 見ると男子生徒が僕に話しかけてきた。


「邪魔なんだよクズ!

 テメェのせいで"姫奈"が

 席に座れねぇだろうが!」

 そう言うと後ろで男子生徒に囲まれている

 女子生徒が僕に話しかけてくる。

「そこで、ご飯食べたいからどいて?」


 彼女の名は

 "辻園 姫奈"《つじぞの ひめな》

 内のクラスでアイドルみたいに

 扱われておりいつも周りに男子が

 付き人の様に群がっている。

 そんな彼女も僕を苛めている人間の1人だ。


「ごっ......ごめん。」

 僕がそう言って席を立ち弾かれて中身が散らばった弁当箱を片付けようとすると、

 背中を蹴られて僕は散らばっている弁当箱弁当箱の中身に向かって倒れた。


「ゴミ捨てて帰ろうとしてんじゃねーよ!

 さっさと片付けろよクズが....」

 そう言うと取り巻きの生徒が僕に向かって箒と塵取りを投げて寄越す。

「そのきたねぇゴミさっさと集めてゴミ箱に捨ててこいよ....あっ!ついでにお前もゴミ箱に入ったらどうだ?

 お前クズなんだからゴミ箱が実家みたいなもんだろww」


「あっはっは!確かにそうじゃん。」


「言えてる言えてるさっさと帰れよ

 ゴミ箱にww」


 周りが僕を何時もの様にバカにする様を聞きながら渡された箒と塵取りで捨てられたご飯を片付けた。

(お母さん.....ごめんなさい。)

 何度言ったか分からない懺悔の言葉を心の中で唱えながら片付け終わるとその場を後にした。


 俯きながら歩く僕を何処からか現れたイクアが笑いながら見つける。

「相も変わらず清々しい程の苛められっぷりだね.....ここまで来ると感心するよ。」


(何のようだよイクア?)


「なーに、次の贄が決まったから教えてあげようと思ってね。」


(....贄?)


「あれれ!もう忘れたのかい?

 次の対価の話だよ対価。」


 そう言うとイクアが懐からスマホを取り出す写真を僕に見せるそこには僕のクラスの担任の顔が写っていた。


「次の獲物は、

 君のクラスの担任 中堂 健先生だ。

 はい、拍手....パチパチパチパチ」

 イクアは上機嫌に手を叩きながら言った。


(...............)


「あれ?珍しいね。

 何時もの君なら嫌悪感を感じるか拒否すると思ったのだが......」


 確かに普段の僕ならイクアの対価になる人物はどんな人でも嫌だと拒否しただろう。

 だが、"中堂"は違う。

 いじめが酷くなってきた時、僕は担任である中堂に何とかして欲しいと相談した。

 しかし、中堂は拒否した。

 理由は単純....."めんどくさい"。

 相談した時に中堂は僕に言った。


「"そんな事"で俺を呼び止めたのか?

 俺も暇じゃないんだよ。

 お前みたいなパッとしない生徒なんて助ける価値なんて無い。」


「そっ、そんな......

 でも本当に酷くなってきてるんです。

 最近は怪我をするような事もしてきてて...」


「それがどうした?

 そんなの黙ってやられるお前が悪いだろ。

 .....それにな俺はお前に対する"いじめ"は良いことだと思っているんだ。」


「え?」


「人って言うのは何かと優劣を付けて立場を決めていく。

 そして、立場を決められた人間は、

 それにふさわしい人生を歩んでいく。」


「お前がクラスの奴等からいじめられることでガス抜きが出来てクラスが安定する。

 そうすることでガス抜きされた生徒は、

 良い成績や結果を出して俺の得点に繋がる。

 つまり、"お前がいじめを受け続けることで" このクラスは良いクラスに

なっていくわけだ。」


「だから、俺はお前のいじめを止める気も無ければ問題にすることもない。

 もし、お前がこの事を問題にしようとするなら俺はお前と"家族"を叩き潰す。

 俺の幸せのために.......」


 いじめを公認しあまつさえ

推奨する教師.....

 その事を僕に悪びれもなく話すと中堂は、

 まるでゴミでも見るような目で、

 一瞬僕を見ると何事も無い様にそのまま立ち去っていった。


 僕はこの担任が対価として選ばれても驚きはしない。

 イクアの求める腐った魂に最も当てはまるのが中堂だと僕は思っているからだ。


「つまり、僕の力を使って復讐をしたいのかな?」

(別に....ただこの世界に罰があるなら、

 中堂は受けるべき存在だと思うだけだよ。)


 僕の家族を人質にしたあの男なら......


 イクアが聞き終えると落胆するように溜め息を吐いた。


「はー....復讐心かと思ったら罰ときましたかぁ......ここまで"勘違い"が凄いと逆に哀れになりますねぇ」


(勘違い?......中堂に罪は無いって言いたいのか!)


「えぇ、"無い"ですよ。

 彼は貴方とクラス全員を天秤にかけてクラスを取っただけに過ぎませんし......

 本当に罰を求めたいのなら警察にでも相談したり行動をすれば良かったんですよ。」


(でも、僕の家族が.....)


「"自分の命"が奪われそうなのに"家族"の心配をしている.....貴方の命は随分と安っぽいのですね?」


「我々、悪魔にも家族....と近い形態は存在します。

 しかし、そこには情や絆みたいな利益にならない物は介在していません。

 常に自分が中心であり自分本意なのですよ。」


「それに、君は家族を

 人質に取られたかの様に言っていましたが、私ならそうされても自分の障害を徹底的に排除しようとしますね。

 本当に襲う確証もありませんし、

 むしろ、襲ったらそれこそ彼の人生は破滅するでしょう?」


「君は仕方なくいじめを受け続けることを選んだわけではなく家族と自分の命を天秤にかけて自分の命を捨てたんです。

 それなのに、まだ正義なら罰等と的ハズレな事を言うとは思いませんでしたよ。」


 イクアは僕に落胆の表情を向けると、

 閃いたと言って話を続けた。


「そうだ!

 今回の対価である中堂 健を追い詰めるのに貴方に向けて行われた罪は使えない事しましょう。」


(!?)


 僕の"罪"が使えないと言うことは僕に対して行われた行動ではイクアの能力が使えない。

 つまり、別の罪でしか中堂を裁けなくなると言うことだった。


(そんな!?それじゃあ中堂をどうやって裁けば良いんだよ!)


「知りませんよそんな事.....

 私はちゃんと対価の魂が頂ければ

それで良い。

 方法は君が考えてください。

 そんなに気負わなくても良いですよ。

 失敗したら........」






「前と同じ姿に戻るだけですので」






 続く

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