第4話 フジミ

 天城さんとの話を終えた僕は学校帰りに病院に寄った。

 勿論、治療の経過報告の意味合いもあるが、実際は自分が運ばれてきた当時の状況を知るためだ。


 一通り検査が終わり担当医から話を聞く。

「凄いね君は脳死状態だったのに後遺症処か寧ろ前よりも健康になっているよ。」

「は、はぁ.......」


「前にも言ったと思うが君が治ったのは奇跡の様なものなんだよ。

 私も柄では無いけど"神"に感謝したぐらいだからね。」

 実際には"悪魔"に助けられたのだと思うと、何とも皮肉の効いた言い回しだと思いつつも僕は担当医に質問をした。


「先生....お聞きしたいのですが?

 僕がここに来たときはどんな状態だったのか詳しく教えていただけないでしょうか?」

「そんな事を聞いてどうするんだね?」


「いえ、ただまだ自分の中でも実感がないんです死にかけたこともそして今生きていることも.....」

「何と言うか...."お遊び"で生き返らせられた様な感じがして」

 イクアとの契約により生き返ることが出来た僕にとって本心から出た言葉であった。


「.........君が運ばれてきた時は頭から大量の出血があり止血はしてあったものの危険な状態だった。」


「脳圧が高く....失礼頭の中の水が血液で増えて膨らみ脳を圧迫した影響で脳の機能が一時的に停止したんだ。

 僕達も何とかしようと努力はしたけど駄目だった。」


「何とか手術は成功したものの停止していた時間が長過ぎて脳死となってしまった。」


「そうだったんですね.....」


「それと気になったことと言えば

 君の背中が"真っ青"になっていてね。

 後で調べてみたら服に青いインクがベッタリと付いていた。」


「インクですか。」


「あぁ、特に問題はないと思ったんだが...」


「ありがとうございました。」

 僕はそう言って診察室から出ようとするが担当医に止められた。


「待ってくれ鈴原君。

 間違っていたら申し訳ないが、

 君はイジメに遭っているのではないか?」

「だとしたら、相談してくれ。

 もし、この事故が虐めによるものならば、

 君の命に関わる。」


「気遣ってくれて有難うございます先生。

 けど、大丈夫です。」

「そうか....だが覚えていてくれ。

 私は君の"味方"だからね。」


 診察室を出た僕は複雑な気分になった。

 先生の言う通り虐めと結び付く証拠が出れば俺を殺そうとした連中を裁くことが、

 出来るだろう。


 だけど、そんな事はイクアは望んでいない。

 そして、イクアの望まない結果は僕の肉体の、死を意味する....いや死よりも酷い結末が待っているに違いない。


(味方........か。)

 その言葉を悪魔と取引する前に聞いて起きたかったと僕は心の底から思うのだった。




 家へ帰る途中、僕の動きを邪魔するように首に腕を回されて僕は驚く。

 目を向けると伊藤が僕の首に手を回して絞めながら顔を向けていた。

「よう....クズ。

 こんなところで会うなんて奇遇だな?

 ちょっと付き合えよ。」

 僕はそう言われて伊藤と共に裏路地に連れ込まれた。


 連れ込んだ瞬間、僕の腹に蹴りを加える。

「グフッ!」

 モロに蹴りを食らった僕は地面に蹲るがそんな事をお構い無しに伊藤は蹴りをし続ける。

 倒れた僕の顔に向かって何度も何度も、加減の無い本気の蹴りが何度も続いた。


 骨が砕け歯も折れてしまった僕の顔を見て満足した伊藤は漸く蹴るのを止めた。

 息を切らしながら僕に言う。


「はぁはぁ、やっぱり直にやった方が

 スッキリするなぁ....

 あー"ゴミ掃除"って楽しいわぁ」


「お前さ千香と何か話したみたいじゃんか?

 何、歯向かっちゃってるの?

 お前はクズでゴミなんだから大人しく潰れてりゃ良いんだよ。」


 そう言うと伊藤は笑いながらその場を後にしようとし止まって鈴原を見た。


「次、また"余計"なことしたさ....

 本気で殺すから覚えとけよゴミ。」


 伊藤が消えてから僕は何とか身体を起こすことが出来た。

 未だ身体には激痛が走り口からは血が止めどなく流れている。


 しかし、暫く経つと血が止まり顔の傷は愚か骨や歯まで再生し元の顔へと戻っていた。

 痛みが止まった僕は不思議に思い鏡を見てみると血は付いているものの先程受けた怪我は完全に完治していた。

(.......完治しているあんだけ蹴られたのに)


 自分の状況に驚いているとイクアが路地裏に現れる。


「呼ばれず飛び出て

 ジャジャジャジャーン!」

「随分と酷い目にあったね正木君www

 いやぁ、僕も悲しいよぉwww」


 欠片も篭っていない悲しみの言葉を貰った僕はイクアに話しかける。


「まさか、僕を本当に不死身にしてくれたのか?」

「うーん、正確には違うけどまぁ、似たような物かな?」


「君の受けたダメージは、

 謂わば"罪の蓄積"だ。」


「罪の蓄積?」


「この世界で始めて産まれた法律である

 "ハンブラビ法典".....知ってる?」


「確か"目には目を歯には歯を"でしたっけ?」


「大正解!!花丸20点上げちゃう!」


「要は君が受けるダメージは相手の持つ罪に応じて平等に罰として与えることが出来るって訳。」


「つまりは君が辛く死にそうな目に遭えば遭うほど相手に与える罰と総じて重くなる。」


「つまり?」


「復讐したい相手がいるなら死ぬ程のダメージを負おう!

 安心して!どれだけやられても君は死なないし死ねない...無限に罰をチャージ出来るぞ。

 やったね!」

(.......................)


「あれ?文句言わないんだ?」

「言ったところで変わらないし拒否すれば、

 待っているのは死なんでしょう?

 じゃあ、言ったって仕方ありません。」


「なーんだよー!達観しちゃってー!」

 イクアが不貞腐れていると一転し真面目な顔になり鈴原に尋ねる。


「もう分かってるんでしょう?

 犯人が誰なのか。」


「......うっすらとですがね。

 けど、まだ確証がない。」


「.......それに」

「それに?」


「僕は復讐なんて望んでないんです。

 ただ、平和に"生きていた"かった......

 それだけです。」


「ふーんまぁ、どうでも良いんだけどね。」


「君に復讐する気があろうと無かろうと僕と取引した対価を渡すためには復讐と言う行動を取り犯人を見つけないといけない。

 でないと、君が死人になるだけだ。」


 そう僕はもう選択する権利はない。

 自分が生き残るためならどんなことでもする。

 虐めている奴等と対した違いは無いんだ。

 イクアは僕の事をクラスの"おもちゃ"だと言った。

 最初は否定したが恐らくは合っているんだろう。

 僕がおもちゃなら虐めている奴等はおもちゃに群がる"魚"そしてそれを釣って食べるのがイクアと言う悪魔なのだろう。





 得た情報は少なく確証もない......

 殆ど賭けのような状態だ。

 賭けに勝てば僕は生き残り負ければ死ぬ。

 だが、負けたくはなかった。


 復讐のためではない生きるために僕は正しい真実を求めよう。




 それが例え...どんなに薄汚い物だったとしても..........







 続く

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