第2話 トリヒキ
(取引?)
非現実的な事を言われた僕は頭の整理が付かないでいた。
「あー、だよねぇ~。
いきなり、死にかけたと思ったらベットの上で天井から超絶イケメンな僕が話しかけてきたら流石に混乱するよね。」
そう言うとイクアは眼鏡をかけて教師のように説明を始めた。
因みにイクアの顔だが確かにイケメンと呼ぶに相応しい端正な顔をしていたが何処か冷たく人形の様な不気味さも備えていた。
「僕達、悪魔の仕事は人を誑かしてその人の願いを聞いて叶えてソイツの魂を持ってっちゃう!.....
何て一般には思われてるらしいけど実はそれだけじゃない。
悪魔が取引を持ち掛けて人間の願いを叶えるって場合もあるんだ。」
「君は窓から落下した時に頭から落ちたよね?
その結果、頭に血がたまって脳死状態になっちゃったんだよ。」
(脳死?僕が?)
自分の絶望的な状態を伝えられて僕は驚いていた。
「そう、さっき君がスマホを腕を上げて見れたのも僕の力.....その証拠にほらっ!」
イクアがパチン!と指を鳴らすと先程まで上がっていた腕がストンとベットに落ちて動かすことが出来なくなってしまった。
「普通だったら君はこのまま脳死としてベットで一生を終えるか親に諦められて医者から死を与えられるかの二択しか無いわけよ。」
「でもさ....そんなの"面白くない"じゃん。」
「これまで虐めにずーっと耐えてきて殺されかけても何とか生き残ったのにその結果、がこれって"フェア"じゃないよね?」
「だから、僕が君を生かして取引を申し込んでいるわけだよ。
条件は単純、僕は君を脳死から復活させて健康体....いやこの際、"不死身"に近くなるまでにしてあげるよ。
君が支払う対価は僕の"欲求"を満たすこと」
(.......欲求?)
「あっ!安心してよ別にエロい奴とかじゃないから....僕にそんな趣味無いし。」
いきなり告げられた条件の取引に僕は驚きながらも悪くない取引だと思えた。
(不死身に近い....って事は死ぬようなことはもう無い。
その対価が欲求を満たす事.....一体どんな欲求なんだ?)
獲られる物の大きさから僕は支払う対価について考えて及び腰になっているとイクアが言った。
「対価も安心して良いよ別に君が"自分の手で人を殺せ"とか"犯罪"をしろ!とかそんな事は言わないからさ。」
見透かしているかのようなイクアのフォローに僕がどうするか考えていると、
「君は一度死んで復活した。
そんな君を見たら虐めている子達も見る目も変わるかもよ?
もしかしたら、罪悪感から苛めを止めてくれるかも?
それに君のお父さんも言ってたでしょ?」
「人間我慢して耐え抜いた者が最後には勝つ」....ってさ!
「君が蘇ったら家族はきっと喜ぶよ。」
家族.....虐められっ子の僕にとって唯一信頼できる存在....それが家族だった。
僕の母さんと父さんは僕が虐められていることを知って何とかしようと努力してくれた。
PTAの会合でも議題にして話したと聞いたことがあった。
根倉でコミュ障な僕が苛めを受け続けても、何とか生きてこれたのは家族のお陰だった。
(そうだ。生き返れるのなら良いじゃないか
健康な身体...それも不死身に近い状態になれるなんて....)
そう思い考え終わると心は晴れやかな気分になりどうするかの答えも決まった。
「イクア僕は君と"契約"するよ。」
こうして僕は悪魔と契約して生き返ることにした......
この時の僕は生き返れることの嬉しさに心が弾んでいた。
これから先の人生はきっと楽しいものになるのだとそう思っていた。
しかし、僕は忘れていたのだ。
僕が契約したのは悪魔だと言うことに......
僕は目が覚めた事を聞いた両親はとても喜んでくれた。
「生きていてくれて嬉しい。
本当に良かった。」
と言って涙を流していたのを覚えている。
医者からは驚異の回復力だと言われた。
脳死でもう手の施しようが無い状況から生還したのだ当然だろう。
それから一週間たって僕は高校に戻ることになった。
イクアも言っていた。
脳死になる程の事件を起こしたんだ。
僕を虐めていた奴等も少しは反省してくれているだろう。
僕は教室の扉を開いて中に入った。
するとそこは.......
「おっ!生き返ったんだってなぁクズぅ!」
何時もと変わらない
何も変わりはしなかった。
苛めは続き相変わらず殴られ笑われる生活。
担任も変わらなかった。
それどころか
「お前が面倒なことをしたせいで俺は大変な目にあったんだぞ!反省しろ!」と言われる始末だった。
そう何も変わらない僕が死にかけようが
何しようが苛めは止まらなかった。
(............何で?)
絶望の中で僕は心の中で問いかける。
(何で僕はこんな目に遭うの?)
何も悪いことはしていない。
誰にも迷惑はかけていない。
そんな人生を歩んでいる筈の僕に何で......
(誰も助けてくれないの?)
笑い声とクズと呼ぶ声が頭の中で木霊する。
そんな中でパチパチと拍手する音が聞こえる。
そしてその音の正体に僕は目を向けた。
そこには彼が笑いながらこちらに歩いてきていた。
「いやぁ〜良いねぇ良いねぇ!
楽しくなってきたじゃない!」
イクアが拍手をしながら僕を見つめる。
「どうしたんだい?正木君?
そんなに絶望した顔をして何も驚くことなど無いじゃないか?」
「だって君は彼等の"おもちゃ"だったんだからさ.....」
(おもちゃ?)
「そうだよ。文句も言わずどんな命令でも聞いてくれるおもちゃそれが君だよ。」
自分の存在がおもちゃだと言われた僕が苛立ちと怒りから心の声を粗げる。
(ふざけるな!
僕はおもちゃじゃない人間だ!)
「いいや、違うね君は"人間"じゃない。
人とすら見られてはいない。」
「とっくに気付いてるだろ?
何で君が死にかけたのに誰も何も思っていないのか?」
(........止めろ。)
「人間は自分と同じ種が傷つくと大なり小なり精神に変化を及ぼす。
何故なら同じ者が負ったダメージなら自分もそうなってたかもと想像することが出来るからだ。」
(..........めろ)
「それをしなくて良いのは、
壊れても問題の無い存在......
そして、遊びの延長線上で好き勝手出来るもの......そうおもちゃだ。
おもちゃは人間の作り出した道具。
おもちゃは人が好き勝手にする事を認められた数少ない物の1つなんだよ。」
(...........ろ)
「そして、おもちゃの決定的証明。
それはね.....」
「壊れても誰も気にしない。
直ったとしてもまた壊すまで遊べば良い。
正に....."君の存在"そのじゃないか!」
イクアの声が僕の中に響いていく。
彼が僕を見る目はもう人を見る目ではない奴等と同じおもちゃを見る目だった。
イクアの高笑いが部屋に響き渡る。
しかし、その事に誰も気付いてない。
いや、違うな.......
気付きようがない皆が笑っているのだから...
何でイクアが僕を蘇らせたのかは分からないがこれだけはハッキリと分かる。
彼は自分の利益のために僕を蘇らせたに過ぎないと......
一通り笑い終わったイクアは僕に語りかける。
「あっはっはぁ....さーてと、笑うのも飽きたところだしそろそろ僕への対価を払って貰おうか。」
(もう、これ以上何を求めるって言うんだ..)
心が折れてしまった僕にイクアは言う。
「君に求める対価はたった1つ.....」
「君以外の魂を僕に渡してくれ.....」
続く
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