悪魔はそれでも笑いかける。

のいん

第1話 ハジマリ

「お前って何で生きてるんだ?」


「早く死んじゃえよww」


「キッモ!」


 これが僕がいつも聞いている言葉だった。

 有り体に言えば僕は虐められている。


 原因なんて些細なものだった。

 コミュ障でひ弱.....絵に描いたような虐められっ子。

 どっかの物語見たいに転生したら無双出来る様な主人公ではなかった。


「おーい、クズ!」


 クズとは僕の名前の変わり....名前で呼ばれることなんて全く無い。

 何時しかそう呼ばれることにも慣れてしまっていた。


「これ買ってこいよ!」


 何時ものように僕は指定された食べ物を買いに行く.....

 お金なんて払って貰った事すらない。

 そして、物を買ってきて渡し行くと殴られていた。

「遅いんだよ!このクズ!」


 コイツには遅い遅く無いは関係ない殴りたいから殴った....俺はそういう都合の良い存在だった。


 そう言えば父さんが言っていたな......

「人間は我慢して耐え抜いた者が、

 最後には勝つ」って


 そんな言葉は信じてはいなかったけど、

 少なくとも学校を卒業すればこの拷問の日々は終わると思っていた。



 だけど僕は知らなかった.......

 "我慢した者"が勝つんじゃない.....

 そもそも生きていないと勝負にすらならないってことを.....



 きっかけは簡単だった。

 クラスの奴らが暇潰しで俺を学校の窓から突き落とした。

 そして、運悪く僕が落ちた場所はコンクリートの地面だった。

 グシャ!頭から落下した僕は視界が赤く染まっていくのを感じだ。


 死ぬことは怖くなかったこのまま拷問の様な日常が続くぐらいならここで死んでしまった方が楽になるからだ。


(あぁ......やっと死ねる。)

 安堵の感情の中、僕は意識を手放そうとした瞬間



「ハロー!元気してる?」

 僕はコイツに見つかってしまった。

 僕のこの光景を笑顔で眺めている青年.....

 彼の名は『イクア』


 彼との出会いが僕を更なる地獄へと進ませていく。




 逃れる術はない。

 彼が僕に笑いかけ続ける限り.......




 僕は目を覚ますとそこは知らない天井のベットの上だった。

(ここは....何処なんだ?)

 周りの景色を確認しようとした時、ふと手に何かを握っている感触を感じた。

 腕を上げてみるとそれは僕の持っているスマホで画面が急についた。


 ニュース映像が流れておりキャスターが次の話題を話し始める途中だった。

『では、次のニュースです。

 東京都◯◯高校で起きた転落事件について、新たな情報が入ってきました。

 三階から飛び降り自殺を図った高校二年、

 鈴原正木すずはら まさき氏は....』


(!?僕の名前.....ニュースになったんだ。)

 自分の負った事件がニュースになっているのに驚きながらも僕はニュースの内容を注視していた。


『学校の説明ですと彼は気弱でこれから受験と言うストレスに耐えられなくなって自殺を図ったとなっており....』

(違う!!僕は自殺なんかじゃない!

 殺されかけたんだ!)

 このニュースを否定しようと声を出そうとするが僕の声は出ない。

 いくら喉に力を入れても呻き声すら出ない。


 すると、今度はニュースの映像が変わり生徒のインタビューが写り出す。

『僕は鈴原君の事を本当の親友だと思ってたのに.....何で自殺なんか....』

 そうやって画面の前で泣いているこの男は、伊藤 いとう じゅん僕の事を率先して虐めていた奴らの一人だった。

 しかし、画面の中のコイツは僕の事を親友と呼び死んだことを然も悲しげに訴えかけていた。


(嘘だ!コイツは僕が落ちるときも笑っていた頭から血が出てるときも

「血出てんじゃんwwwうっけるぅww」と言って笑っていた!)


 また画面が変わり今度は担任が写る。

『何故....死ぬ前に相談してくれなかったんだ.....そんな気持ちで一杯です。』

 そう言って担任の中堂 なかどう たけしは悔しい表情を浮かべていた。


(相談?....したじゃないか!

 ずっと何とかして欲しくて相談に行った...

 それなのに「そんな下らないことで俺を呼ぶな!自分で解決しろ!」って言ってばっかで...終いには虐められている僕の姿を見て、一緒に笑ってたじゃないか!)


 それからも色んな生徒や人が画面に写っては可哀想や天国でも友達とか思ってもないことばかり言っている。


(ふざけるなよ....皆が皆、僕を虐めて楽しんでたくせに死んだら僕の味方だって言うのかよ!

 何で死んでまで苦しめられなきゃ行けないんだよ!)


 "僕の死"まで......虐めて遊んでいる......



「いやぁ、絵に描いたようなクズっぷりだよねぇ〜可笑しすぎて涙出そう(笑)」


 そんな声が聞こえると僕の目の前に黒いスーツを着た青年が立っていた。

 そう....目の前の天井に張り付いていた。


「おっ!良いねぇ!その意味分かんない見たいな驚きっ!やっぱこの登場の仕方にして良かったわぁ!」

 そんな僕の驚く姿を彼は見て心底可笑しそうに笑っていた。


(.....誰なんだ?)

 声を出せないのでそんなことを考えていると

「あっ俺?俺の名前はイクア。

 君を助けた救世主さ!」

 自信ありありとした表情で自己紹介をした。


(!?何....)

「何で喋ってないのに分かるのかって?

 それはね〜秘密♥️」

 人差し指を口に付けて言うと僕のスマホを奪い話始める。


「にしても酷いよねぇ〜君は自殺じゃなくて殺されたって言うのにみーんな嘘付いちゃってさぁ〜」


「これじゃあ、正に"無駄死に"...いやそれよりも酷いかぁ.....

 だって死んだこと利用されて美談にされちゃったわけだからねぇ。」


 わざと神経を逆撫でするような言葉を選んで話しているのが分かり僕は苛立ちを募らせる。

 それを感じたのかイクアは笑いながら弁明した。


「あっ!ごめんごめん!怒らせる気は無かったんだよいやマジで!

 "職業病"みたいなものだから許して。」


(職業病?)

 僕の質問にイクアは目を見開きながら答える。

「おっ!気になっちゃう?

 だよねぇ?仕方ないなぁ教えてやるよっ!」



「僕は君らの世界で言う"悪魔"って存在で、

 職業って言うのはまぁ"取引"の事だよ。」


 そして、イクアは僕にこう尋ねた。





「鈴原 正木君、僕と取引をしないかい?」




 それは正しく"悪魔の契約"であった........





 続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る