夜の繁華街で理不尽に絡まれ、その絡んできた相手の小指を噛みちぎってしまうところから始まる、とある成人男子の日常のお話。
幸せな家庭を描いたほのぼの現代ドラマ、あるいはそれ風の何かです。この〝それ風の何か〟感がすごい。一見、なんら特別ではないが故に愛おしい日常の物語、のように見えて、でも冒頭の一幕、「絡んできた相手の小指を噛み切る」という異常行動だけがあまりにも異質。出だしにいきなりぶつ切りのまま置かれた不安の種の、そのインパクトが本当に強烈でした。平和な風景の中に、ところどころ混ざり込んでくる〝よくない何か〟のような。
お話の筋としては、何か秘められた過去のようなものが徐々に詳らかになっていく、というものなのですけれど、まあその真相の中身のえぐいこと! すべてを狂わせてしまうほどの嫌な事件で、でも安易に「それさえなければ」と、それだけで割り切れるものでもなさそうなところが特に好きです。
一点、起きてしまった悲惨な事件とはなんの関係もなく、最初から主人公の中にあった小さな危うさ。もちろん事件の凄惨さに比べたら、というのはあるにせよ、でもどこまで行ってもある種の「信用できなさ」の残る、この〝物事の単純でなさ〟が最高に好きなお話でした。